生物の細胞を考える




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生物の誕生と細胞

 遥か昔、原始の海にバクテリアや原始的な細菌などの単細胞生物が誕生した。約38億年前の事。
これら細菌類・古細菌類は細胞核が膜に包まれていない原核生物と呼ばれる生き物だった。
因みに後に現れた ウィルス 他の生物の細胞を宿主にし増殖する微生物。細菌より遥かに小さい。 も原核生物に似た構造を持っているが、自分自身でエネルギーを作ったり繁殖する事が出来ないので生物に分類されていない。

やがて数十億年経つと、古細菌の一種がバクテリアを細胞内に取り込み、共生するようになった。核が膜に包まれた細胞を持つ真核生物の誕生である。 真核生物も最初は藻類やアメーバのような単細胞の原生生物だったが、約5億4000万年前のカンブリア紀になると、様々な多細胞生物が出現しそこから目覚ましい進化を遂げて今日に至る。

今回はその進化した生物の最小単位である“細胞”について考えてみたい。


細胞の構成要素

 動物の細胞には神経細胞や上皮細胞などたくさんの種類があるが、1つの細胞内の構成要素は殆ど変わらない。 細胞の構成要素を見てみよう。

動物の細胞

動物の細胞

まず、細胞は細胞膜に包まれていて、細胞の外・内の物質の出入りを調節している。 細胞膜の内側には細胞核と様々な小器官がある。

細胞核は膜に覆われた球体の構造で、中には複数の染色体と1つの核小体がある。
染色体は細長い2本の棒状のものがクロスする形の遺伝物質で、2本が対になっている。ヒトの場合の染色体の数は23対(46本)である。
丸い核小体は、内部でリボソームという小さな小胞を作っている。

核小体で作られたリボソームは細胞核の穴から出て、核を取り囲む小胞体に付着する。 このリボソームは生物に必要なタンパク質を合成する非常に重要な構造体で、小胞体以外にも細胞内に浮遊している。 リボソームが付着している小胞体を粗面小胞体(そめんしょうほうたい)、付着していない小胞体を滑面小胞体(かつめんしょうほうたい)と呼んでいる。
リボソームが合成したタンパク質はゴルジ体によって細胞の外へ輸送される。

ミトコンドリアは2重の膜から成る楕円系の小器官で、1つの細胞内に数百から数千存在する。ミトコンドリアは酸素を燃焼し生物の活動に必要なエネルギーを生成する。
ミトコンドリアは元々独立した別の原核生物(好気性細菌)だったが、大昔に古細菌から進化した真核生物の祖先に取り込まれて細胞内に住み着いたと言われている。 植物の細胞にはミトコンドリアの替わりに葉緑体があるが、こちらも大昔にシアノバクテリアが取り込まれたと考えられている。 その証拠として、ミトコンドリアや葉緑体の内側の膜は細菌類の内膜に酷似している事、独自の遺伝子情報を持っていて細胞内で必要に応じて増殖する点が挙げられる。

細胞にはそのほか、細胞外から取り込んだ物質を分解するリソソームや、細胞分裂を司る中心体などの小胞が存在する。


染色体の正体

 20世紀の科学は、エレクトロニクスやコンピュータが急速に進化した時代だった。
そして21世紀は「生命の世紀」と言われ、今世紀中に全てのゲノムが解析されると言われている。 ではその遺伝子情報を持つ染色体とはどのようなものなのか?

染色体は「細胞の構成要素」で見た通り、細胞核の中で細長い棒状のものが2本クロスするような形で存在している。 生物の種類によってその数が決まっていて、ヒトは46本、チンパンジーは48本、鯉は100本、シダ植物は1260本もあるという。 2本が対になっているので基本的には偶数になる。

ヒトの染色体

人の染色体

ヒトは22対の常染色体(じょうせんしょくたい)と1対の性染色体(せいせんしょくたい)を持っている。 常染色体は1番染色体から22番染色体まで大きさは様々だが、対になっている2本の長さや遺伝子情報は同じである。 一方、性染色体は性別を決定するもので、女性は2つのX染色体(XX型)、男性はX染色体とY染色体1本づつ(XY型)である。

Y染色体はX染色体と比べると半分以下の短さだ。遺伝子の数もY染色体は極めて少ない。太古の昔、哺乳類が誕生した頃はXYは同じ大きさだったが、進化に伴ってY染色体は縮小したと最近の研究で判ってきた。
このペースでY染色体が短くなり続けると、1400万年後には哺乳類のY染色体は無くなるという説もある。

一方、日本の南西諸島に生息しているトゲネズミにはY染色体を持たない事が知られている。オスもメスもX染色体1本しかない(X0型)。
しかしオスの遺伝子情報であるY染色体が無いにも関わらずオスが生まれる事から、性別を決定する遺伝子情報は常染色体にも存在する可能性があるらしい。 どうやらオスの絶滅は免れそうだ(よかった…)。

ところで染色体の構造はどうなっているのだろうか?

染色体はDNAの集合体である

染色体はDNAの集合体である

染色体は繊維のようなもので出来ている。 その繊維をほどいていくとヌクレオソームという毛糸だまに似たボールのようなものがコイル状に巻かれている。

更にヌクレオソームをほどくと8つのかたまりに分かれる。このかたまりは繊維に包まれたヒストンと呼ばれていているタンパク質だ。

このヒストンタンパク質の繊維は二重の鎖が右巻きの螺旋(らせん)状にねじれたDNAというの核酸である。つまり染色体はDNAが折り重なった集合体という事だ。

このような構造をクロマチンと言い、ヒトの1つの細胞核にあるDNAを繋げると2メートルにもなるという。 細胞核の直径は僅か10マイクロメートル(1mmの100分の1)なので、クロマチンの収納力は驚異的と言える。


DNAとは何だろう

 いよいよ核心に近づいてきた。うまく説明できる自信は無いが、DNAについて考えてみる。

DNAはデオキシリボ核酸と言い、 デオキシリボース デオキシリボース というリン酸塩基から構成される核酸の事。

塩基というのは酸と対になって働く物質の事で、DNAを構成する核酸塩基はアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)の4種類ある。
アデニンとグアニンは俗に言うプリン体の一種でプリン塩基と呼ばれ、シトシンとチミンはピリミジンに由来するためピリミジン塩基と呼ばれる。

DNA二重らせんの塩基対はプリン塩基とピリミジン塩基の水素結合によって構成されるため、A(アデニン)はT(チミン)と対合し、C(シトシン)はG(グアニン)と対合する。 この塩基対はDNA二重らせんの2つの鎖をつなぐはしごの段に例えられる。

塩基対と糖が結合した化合物はデオキシリボヌクレオシドと呼ばれ、アデニンと結びついたものをデオキシアデノシン、シトシンと結びついたものをデオキシシチジン、グアニンと結びついたものをデオキシグアノシン、チミンと結びついたものをチミジンと言う。

難しく考える事は無い。 要するに、DNAのはしごの段はA(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)4種類あるという事。

そしてこの4種類のはしご段(ヌクレオシド)がリン酸と結合すると下図のようなDNA二重らせん鎖(ヌクレオチド)が出来上がる。 2本の鎖はそれぞれA、T、C、Gの4つの塩基パターンがランダムに並ぶ塩基配列を構成する。
この図では上の鎖は左からAGTC、下の鎖は左からTCAGという配列になっている。

DNA二重らせん鎖構造(糖はデオキシリボース)

DNA分子構成

この塩基配列が遺伝情報であり、その意味を解明するのがゲノム解析である。ヒトのゲノムの約2%の領域は、A、T、C、G4パターンの組み合わせが アミノ酸 タンパク質を構成する有機化合物。人の場合、20種類ある。 を表す遺伝暗号になっている事が現在判っている。 この遺伝暗号の事をコドンと言い、はしごの段3つで1つのアミノ酸に対応している。 これらのコード化されたDNAは、体に必要な タンパク質 20種類のアミノ酸が鎖状に結合した生物の主成分。アミノ酸の結合数や結合順序により動物性・植物性など10万種類以上存在する。 の設計図として機能する。

一方、ノンコーディング領域と呼ばれているアミノ酸と結びつかないDNA配列は、意味のないジャンクDNAと考えられていたが、その役割が徐々に明らかになってきた。 まだヒトゲノムの97%は解読されていないが、本当に意味が無いものなのかはこれから解明されていくであろう。


もう一つの核酸“RNA”

 DNAはタンパク質の設計図として細胞核に保存されている。

それでは、DNAの設計図を元にどのようにタンパク質が合成されるか仕組みを見てみよう。

タンパク質を合成するのに必要なのが“RNA”(=リボ核酸)という核酸である。 DNAとよく似ているが構造の違いは、結合する糖がデオキシリボースの替わりに リボース            リボース になる事、4つの塩基対のうちチミン(T)がウラシル(U)になる事、らせんの鎖構造が 一重 例外としてミトコンドリアRNAや非常に小さなRNAは二重鎖構造。 という点である。

RNA一重らせん鎖構造(糖はリボース)

RNA分子構成

DNA同様、塩基対とリボース糖が結合した化合物はリボヌクレオシドと呼ばれ、アデニンと結びついたものをアデノシン、シトシンと結びついたものをシチジン、グアニンと結びついたものをグアノシン、ウラシルと結びついたものをウリジンと言う。

RNAにはタンパク質に翻訳するためのメッセンジャーRNA (mRNA)と、アミノ酸を運搬するためのトランスファーRNA(tRNA)がある。

タンパク質合成の仕組み

タンパク質合成の仕組み

まず、DNAの塩基配列はメッセンジャーRNAに転写される。この時、塩基対のチミン(T)は同じピリミジン系のウラシル(U)に置換される。
メッセンジャーRNAが作られると、細胞内小胞のリボゾームがやってきて翻訳を開始する。 リボゾームはメッセンジャーRNAの遺伝暗号であるコドン(塩基3つで1コドン)を読み取り、特定のアミノ酸と結合したトランスファーRNAのアンチコドン(塩基3つで1アンチコドン)と水素結合させてアミノ酸を取り込む。 取り込んだアミノ酸は鎖状にペプチド結合してタンパク質が 合成 動物は1秒間に3,4個のアミノ酸を結合する。(画像はwikipediaより)セントラルドグマ される。

このようにDNAの設計図通りにタンパク質を合成するリボソームであるが、リボソーム自体もリボソームRNAという核酸とリボソームタンパク質で構成された構造体なので、リボソームもRNAの一種と言えるかもしれない。

RNAは他にも細胞分裂の時に行われるDNA複製にも関与している(プライマーと呼ばれる短いRNA)。

このようにRNAはタンパク質合成やDNA複製に不可欠な核酸で、必要に応じて作られ役割が終わると分解される。DNAが静的だとするとRNAは動的である。

因みにRNAの塩基“ウラシル”がDNAでは“チミン”に替わっている理由については、シトシンが化学分解されるとウラシルが生成される事があるため、誤って生成したウラシルを検出して修復するための作用だと思われる。

コドン表(連続した3つの塩基配列は20種類のアミノ酸と開始コード、終了コードを意味する)
No アミノ酸 コドン アンチコドン
1アラニン(Ala)GCU、GCC、GCA、GCGAGC,UGC,CGC
2アルギニン(Arg)CGU、CGC、CGA、CGG、AGA、AGGACG,UCG,CCG
3アスパラギン(Asn)AAU、AACGUU
4アスパラギン酸(Asp)GAU、GACGUC
5システイン(Cys)UGU、UGCGCA
6グルタミン(Gln)CAA、CAGUUG,CUG
7グルタミン酸(Glu)GAA、GAGUUC,CUC
8グリシン(Gly)GGU、GGC、GGA、GGGGCC,UCC,CCC
9ヒスチジン(His)※CAU、CACGUG
10イソロイシン(Ile)※AUU、AUC、AUAAAU,UAU
11ロイシン(Leu)※UUA、UUG、CUU、CUC、CUA、CUGAAG,UGA,CAG
12リシン(Lys)※AAA、AAGUUU,CUU
13メチオニン(Met)※AUGCAU
14フェニルアラニン(Phe)※UUU、UUCGAA
15プロリン(Pro)CCU、CCC、CCA、CCGAGG,UGG,CGG
16セリン(Ser)UCU、UCC、UCA、UCG、AGU、AGCAGA,UGA,CGA
17トレオニン(Thr)※ACU、ACC、ACA、ACGAGU,UGU,CGU
18トリプトファン(Trp)※UGGCCA
19チロシン(Tyr)UAU、UACGUA
20バリン(Val)※GUU、GUC、GUA、GUGAAC,UAC,CAC
21開始AUG、(AUA)、(GUG)
22終了UAG、UGA、UAA
※のアミノ酸は 必須アミノ酸 体内で合成する事ができないため、食事で摂取する必要があるアミノ酸の事。
塩基はA(アデニン),C(シトシン),G(グアニン),U(ウラシル)の4種類。

ところでファイザー社やモデルナ社が開発した新型コロナウィルス用のメッセンジャーRNAワクチン。 従来の生ワクチンと違い、人工的に作ったウィルスの設計図(mRNA)を体内に取り込んで抗体を作る新しい方法なのだ。 世界は日々進歩している。



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