『リボルバー』スペシャル・エディション
ビートルズ『リボルバー』スペシャル・エディションが遂に発売!
65年のアルバム『ヘルプ!』からキーボードや管楽器、弦楽4重奏などアレンジ面で変化を見せ、前作『ラバー・ソウル』ではアイドルから大きな変貌を遂げたビートルズ。
エンジニアのケン・タウンゼントが“発明”した同じテープの音を電気的にずらしてダブルトラックの効果を得るADT(Artificial Double Tracking)を初めて取り入れた最新作のレコーディングは、66年4月6日から6月21日の3ヶ月半みっちり時間をかけて行われた。 アルバムジャケットはそれまでのロバート・フリーマンの写真ではなく、ビートルズのハンブルグ時代からの友人、クラウス・フォアマンによる写真とイラストによるグラフィック・アートを採用。 意欲的なサウンドに挑戦した芸術作品はグループの最高傑作といっても過言ではない。
ニュー・ステレオ・ミックスの1CD、セッションのハイライトを加えた2CDデラックス、セッション完全版とオリジナル・モノ・ミックス、EPを加えた5CDスーパー・デラックスなど6形態。
アナログ盤フォーマットがベースなので割高感はあるものの、貴重なセッション音源はスーパー・デラックスでしか聴けません。
今回のリミックスについて
当時の録音機材は1/4インチ(6.35m)の4トラック・レコーディングだったので、曲によっては4つのトラックを使い切ると別のテープにトラック・ダウンしてコピーし、新たに空きトラックを作っていた。
これはリダクション・ミックスとかピンポン録音、バウンス・ダウンなどと呼ばれる少ないトラック数を補うための当時の録音方法である。
(因みに、録音する音を4トラックとか8トラックとかに分ける目的は、後からそれぞれの音の大きさを変えられるだけでなく、1トラックに2つの音を録音するより1トラックに1つの音を録音する方が遥かに良い音が録れるためである)
技術の進歩で、リダクション前の分離されたマルチトラック・テープ音源とリダクション後の追加トラックの音源の速度をコンピュータで同期させて新たなミキシングを行う事で、よりクリアで分離された音源を再現する事ができるようになった。
これが従来のリミックスなのだが、今回のステレオ・ミックスでは今までにないまったく新しいデミックスという技術が使われている。
「デミックス」とは、各楽器の音やメンバーの声をAIに学習させ、1つのトラック音源からそれぞれの音を抽出させる魔法のような技術なのだ!!
この革命的な技術はピーター・ジャクソン監督が2021年の映画『ゲット・バック』制作にあたり、メンバーの音声をクリアにするために「WingNut Films」で開発したもので、今回のニュー・ステレオ・ミックスでも大きな効果を発揮している。
例えば、ドラムやギター、ベースなどのリズムセクションを同時に演奏して1つのトラックに録音した場合、今まではそれらを分離する事は不可能であったが、デミックス技術を使う事でドラム、ギター、ベースを別々に抽出する事が可能になるのだ!
[CD 1] リボルバー ニュー・ステレオ・ミックス
従来のリミックス技術に加え、新たな最新AI音源分離技術デミックスを採用したニュー・ステレオ・ミックス。
リボルバー・セッションにおけるレコーディングの多くは、ドラムやベース・ギター、リズム・ギターなどのバッキングを同時に演奏して1つか2つのトラックに録音していた。
そのため、最新AI音源分離技術が開発されるまで、このアルバムのリミックス制作は温存されていたのだろう。
リダクションしていない「グッド・デイ・サンシャイン」「アンド・ユア・バード・キャン・シング」「ドクター・ロバート」「トゥモロー・ネバー・ノウズ」ではデミックス技術による“音の分離”が特に力を発揮するのだ。アルバム全体が立体的に聴こえるようになっている。
とは言え、プロデューサーのジャイルズ・マーティンとサム・オケルはすごい最新技術を駆使しつつ、全体のイメージはオリジナル・モノ・ミックスに近いバランスを取っている事がわかる。
あくまで新しさは最小限で、という事だ。
1. タックスマン [2:38]
まず、冒頭のポールのカウント(小生にはジョージの声に聴こえるが…)が耳元で囁くように生々しい。 そしてスネアとタムの迫力が増し、シンバル音の余韻が楽しめる。また、リード・ボーカル、コーラスがクリアで従来とは比べ物にならない位に浮き上がって聴こえる。
オリジナル・ステレオ・ミックスではジョージのリード・ボーカルとポールのハーモニーが中央、リンゴのドラムとポールのベース、ジョージのリズム・ギターが左、ジョンとポールのバック・コーラスとポールのリードギター、リンゴが叩くタンバリンとカウベルが右という音の配置だった。
新ミックスではリード・ボーカルとハーモニーが中央で僅かに左右から聴こえ、ベースとリード・ギター、バック・コーラスが中央、ドラムがやや左、カウベルが左、リズム・ギターがやや右、タンバリンが右から聴こえる。
ドラム、ベース、リズム・ギターは1つのトラックに入っていたが、最新AI音源分離技術により、ドラムはやや左、ベースは中央、リズム・ギターはやや右に分離されている。
2. エリナー・リグビー [2:06]
従来のステレオ・ミックスはポールのリード・ボーカルは右、ジョン、ジョージ、ポールのコーラスと最後のポールのバックコーラスは左、サビのボーカルはADT左右、ストリングスは中央という音の配置。 今回のニュー・ステレオ・ミックスはポールのリード・ボーカルが少し浮き上がって聴こえる。 リード・ボーカルは中央、コーラスは左右、サビのADTのボーカルも中央よりの左右から聴こえる。 最後のポールのバック・コーラスは左なので、リード・ボーカルとストリングス以外は従来の配置に近い。
バックのストリングスは、ヴァイオリンが左、ヴィオラとチェロが右に配置されているが、2015年のベストアルバム『1』のリミックスではヴァイオリンが中央やや左、ヴィオラが中央、チェロが中央やや右という配置で弦楽器が少し目立っていた。 また、99年のリミックス・アルバム『イエロー・サブマリン~ソングトラック~』では、過剰なADTが施されてたポールのボーカルが聴ける。
3. アイム・オンリー・スリーピング [3:00]
従来のステレオ・ミックスは、リンゴのドラム、ポールのベース、ジョンのアコースティックギターが中央、ジョンのリード・ボーカルと、ポールとジョージのハーモニーは左右、ジョージが弾く逆再生リード・ギターは中央やや右の配置だった。
重厚なベース音が際立つ新ステレオ・ミックスは、ジョンのダブル・トラックのリード・ボーカルが中央よりの左右から生々しく聴こえる。
ポールとジョージのハーモニーは左から、ドラムは中央、ベースは中央やや右、アコースティックギターは左に配置。
2本の逆再生リード・ギターは絡みつくように中央で響く。
アコースティックギター、ドラム、ベースが1つのトラックに録音されているが、デミックス技術によりアコースティックギターが中央やや左、ドラムが中央、ベースが中央やや右に分離されている。
4. ラヴ・ユー・トゥー [2:59]
従来のステレオ・ミックスではジョージのリード・ボーカルが左右、ジョージが弾くシタール、セッションミュージシャンが弾くタブラ、ポールが弾くタンプーラが中央やや左、ジョージのファズ・ギターとリンゴのタンバリンが中央やや右、ジョージのアコースティックギターが右から聴こえていた。
新ステレオ・ミックスでは、ダブル・トラックのボーカルが中央よりの左右から聴こえ、アコースティックギターはやや右に小さくミックスされている。
ジョージが弾く1本目のメインのシタールは左から鮮明に聴こえ、2本目のシタールが右から聴こえる。
ファズ・ギターは左から、タブラは中央やや左、タンプーラはやや右、タンバリンは右に配置されている。
一つのトラックに録音されていたシタール、タブラ、タンプーラはデミックス技術によりシタールが左、タブラがやや左、タンプーラがやや右に分離されている。
5. ヒア・ゼア・アンド・エブリホエア [2:24]
従来のステレオ・ミックスは、ポールのダブル・トラックのリード・ボーカルは左と右、ジョン、ポール、ジョージのバックコーラスは左、リンゴのドラムとポールのリズム・ギター、ベースは右、ジョージの12弦ギターは左右に配置されていた。
新ステレオ・ミックスは、ポールのリード・ボーカルが従来版よりやや中央よりの左右に振り分けられ、左から聴こえていた3人のバックコーラスも左右に振り分けられ、ボーカルが鮮明になっている。
リズム・ギターは右、ドラムとベースは中央に配置されている。
ジョージが弾くサビの2本のリード・ギターは左右に振り分けられ、エンディングのヴォリューム・ペダルを使ったギターは右から聴こえる。 最後の指パッチンは僅かに左から聴こえるが、モノ・ミックスのように聴き取りにくくなった。
デミックス技術によりドラムが中央、リズム・ギターとリード・ギターが右に分離されている。
6. イエロー・サブマリン [2:38]
従来のステレオ・ミックスは、リンゴのボーカルとジョン、ポール、ジョージによるコーラスは右、ドラム、ベース、アコースティックギターは左、効果音と間奏のブラス、ジョンによるオウム返しは中央に配置されていた。
新ステレオ・ミックスでは、リード・ボーカルが中央、コーラスは左右から聴こえる。
バスドラとスネアは左、アコースティックギターは中央やや左、ベースは中央、ジョンのオウム返しは右に配置されている。
波やエンジン音などの効果音は中央、左、右から聴こえる。
冒頭のアコースティックギターの1音が入っているのと、ジョンのオウム返しが従来版より1小節早く登場するのが従来版との違い。つまりモノ・ミックスと同じ編集になっている。
デミックス技術によりドラムを左、アコースティックギターを中央やや左、ベースを中央に分離。
7. シー・セッド・シー・セッド [2:36]
オリジナル・ステレオ・ミックスではジョンのリード・ボーカルとジョージのハーモニーは中央、ドラムスとベースは左、リード・ギター、リズム・ギター、ハモンドオルガンは右から聴こえていた。
ニュー・ステレオ・ミックスでは、リード・ボーカルとハーモニーが中央よりの左右から聴こえ、ドラムとベースが中央になり、2本のリード・ギターは左右に振り分けられている。
最後に追加されたジョージのリード・ギターが左からはっきり聴こえ、ジョンのハモンドオルガンも鮮明になったので、従来のミックスと比べると大分印象が変わっている。
というか、新たなステレオ・ミックスは、音のバランスがオリジナル・モノ・ミックスに近くなっていると思う。
8. グッド・デイ・サンシャイン [2:09]
従来のステレオ・ミックスはポールのリード・ボーカルとジョンとジョージのハーモニーが中央、リンゴのドラム、ジョンのタンバリン、ジョージのベース、ポールのピアノは左から、リンゴの追加ドラムとポールの2つ目のピアノ、ジョージ・マーティンのピアノ・ソロが右から聴こえていた。
そしてエンディングのコーラスは左右に配置されていた。
新ステレオ・ミックスはオリジナルに近い音の配置だが、ボーカルが鮮明になり、ポールのピアノがよく聴こえるようになった。
ドラム、タンバリンは中央僅かに左、ベースが中央、ピアノ・ソロは中央やや右、追加のシンバル、バスドラ、スネアは右、2台のピアノは左右から聴こえる。
デミックス技術により1つのトラックに録音されていたドラム、タンバリン、ベース、1つ目のピアノが、ドラムとタンバリンは中央僅かに左、ベースが中央、ピアノが左に分離されている。
9. アンド・ユア・バード・キャン・シング [2:00]
従来のステレオ・ミックスではジョンのリード・ボーカルとポール、ジョージのコーラスがADTによるダブルトラックで左右から聴こえていた。
また、ジョージとポールによるツインのリード・ギター・リフは中央、リンゴのドラム、ジョンのリズム・ギターは左、ポールのベース、リンゴのパーカッションは右だった。
新ステレオ・ミックスでは、ボーカル類がやや中央よりに配置され、より鮮明に聴こえるようになっている。
又、ドラムが中央やや左、リズム・ギターが中央やや右から聴こえる。ベースとツインのリード・ギター・リフは中央から、タンバリン、ハイハット、シンバルはオリジナル通りに右から聴こえる。
デミックス技術を使ってドラムを中央やや左、リズム・ギターを中央やや右に分離している。又、パーカッションとベースを右と中央に分離している。
10. フォー・ノー・ワン [1:59]
オリジナル・ステレオ・ミックスは、ポールのボーカルが中央、ポールが弾くピアノとクラヴィコード、リンゴのドラムとマラカスが右、ポールのベースとリンゴのタンバリン、アラン・シビルのフレンチ・ホルンが左だった。
新ステレオ・ミックスはリード・ボーカルが中央、フレンチ・ホルンはやや左から聴こえるので従来とほぼ同じ。
右から聴こえていた楽器類が、クラヴィコードは左、ピアノは右、ドラム、マラカス、シンバルは中央に配置された。
左から聴こえていたベースとタンバリンは、ベースが中央、タンバリンは中央やや左から聴こえる。
クラヴィコードとピアノの音色がより鮮明になったので大分音の雰囲気が違って聴こえる。
デミックス技術によりベースとタンバリンを中央と中央やや左に分離している。 又、クラヴィコードを左、マラカスと追加のシンバルを中央に分離している。
11. ドクター・ロバート [2:14]
オリジナル・ステレオ・ミックスは、ADTダブルトラック処理されたジョンのリード・ボーカルとポールのハーモニーは左右に振り分けられ、ジョンが弾くリズム・ギター、リンゴのドラム、ジョージのマラカスは中央やや左、ポールのベースとジョンのハーモニウムは右に配置されていた。
そしてミドル・エイトから始まるジョージのリード・ギターは右、ミドルの3人のコーラスは左右から聴こえていた。
新ステレオ・ミックスでは、リード・ボーカルとハーモニーは中央から鮮明に聴こえ、ベースも中央に配置されている。
リード・ギターは左、ドラム、マラカスは中央やや左、リズム・ギターは中央やや右から聴こえる。
従来と同様にミドルのコーラスは左右に振り分けられ、ハーモニウムは右から聴こえる。
デミックス技術が大活躍。1つのトラックに録音されていたドラム、マラカス、リズム・ギターは、ドラムとマラカスを中央やや左、リズム・ギターを中央やや右に分離。 1トラックのベースとハーモニウムは、ベースを中央、ハーモニウムを右に分離している。
12. アイ・ウォント・テル・ユー [2:27]
従来のステレオ・ミックスではジョージのリード・ボーカルと、ジョンとポールのハーモニーは右、ポールのベースも右、リンゴが叩くドラム、マラカス、ジョンが叩くタンバリン、ジョージのリード・ギター、ポールのピアノが中央だった。
新ステレオ・ミックスでは、ダブルトラックのリード・ボーカルとコーラスは中央よりの左右に振り分けられ、ベースも中央に配置された。
リード・ギターは左に配置(イントロのみ右から左に移動)、ドラムは中央やや左、タンバリンとマラカスはやや右、ピアノは左右から2台弾いているように聴こえる。
デミックス技術で1つのトラックに録音されていたドラムとリード・ギターを、ドラムは中央やや左、リード・ギターは左に分離。 また、1トラックのピアノとタンバリンを、タンバリンは中央やや右に分離し、おそらくピアノは音をずらして右と左に振り分けている。
13. ゴット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ [2:29]
従来のステレオ・ミックスはダブルトラックのポールのボーカルは中央、リンゴのドラム、ポールのベースは左、ジョージのタンバリンは中央、ホーンは右、エンディングのギターは中央、ジョージのファズ・ギターは左から微妙に小さく聴こえていた。
ホーンが際立つ新ステレオ・ミックスはダブルトラックのリード・ボーカルは中央、タンバリンも中央、トランペットとテナー・サックスは左右から立体的に聴こえる。
ドラムは中央だがタムが右から聴こえ、オリジナルで小さく聴こえていたファズ・ギターは消去されているようだ。
終盤に聴こえるジョージとポールのリード・ギターは中央から聴こえ、最後にジョンのオルガンが中央から小さく聴こえる。
デミックス技術により1トラックに録音されていたドラムとベースが、ドラムは中央とやや右、ベースは中央に分離されている。
14. トゥモロー・ネバー・ノウズ [2:57]
従来のステレオ・ミックスでは、ジョンのレスリー・スピーカーを通したボーカルが中央、ジョンの通常ボーカルは右、リンゴのドラムとポールのベースは中央、リンゴのタンバリンとジョンのオルガン、ジョージのタンプーラと逆再生ギター・ソロは右、テープ・ループは左、中央、右に配置されていた。
新ステレオ・ミックスでもレスリー・スピーカーを通したボーカルは中央、通常ボーカルはやや右から聴こえる。
ベース、ドラムも中央だが、スネアとタムは微妙に左右に配置されている。オルガンとタンバリンは右、タンプーラは左右から聴こえる。
ジョージの逆再生ギターは右と左に移動している。
デミックス技術で1つのトラックに録音されていたドラムとベースを、ドラムは中央やや左と右、ベースを中央に分離している。 また、ジョンの通常ボーカルを中央やや右、タンバリンを右を分離。ジョンのレスリー・スピーカーを通したボーカルを中央、タンプーラを左右に分離している。