サーフズ・アップ
Surf's Up
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71年8日にリリースされたビーチ・ボーイズのアルバム。
「ティル・アイ・ダイ」、「ディズニー・ガールズ」収録。
全米チャート21位まで上がる久しぶりのヒットアルバムとなった。
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プロデュース:ビーチ・ボーイズ
Brother-Reprise Revel 1971.8.30
曲目リスト
ヒストリー
アメリカにおけるグループの人気低迷を打開すべく、70年8月に新しい広報担当として元DJのジャック・ライリーが就任する。 彼は優れたテレビ・ラジオの放送作品に贈られるピーボディ賞を受賞した経歴を持つジャーナリストで、同年7月29日にはブライアンへの単独インタビューも行っていた。 ライリーの発案によりロサンゼルスの有名なクラブ、“ウィスキー・ア・ゴー・ゴー”に4日連続で出演、素晴らしい演奏で連夜の大盛況となった。 この活躍が評判を呼び、71年4月27日にはニューヨークのフィルモアでグレイトフル・デッドのステージにも出演し、ビーチ・ボーイズの音楽が新しい時代の音楽とも十分に渡り合えることを証明した。 このニュースは大々的に取り上げられ、本国アメリカでもようやくライブ・バンドとしての人気が戻りつつあることを予見させる出来事となった。
“パフォーマー”ビーチ・ボーイズが輝きを取り戻しつつあったものの、グループの著作権を全て売却してしまった父親の暴挙により再び自分の殻に閉じ篭ってしまったブライアン。
創作活動において円熟期に入ったビーチ・ボーイズであったが“充実した時代”は終わりを告げる。そして徐々に低迷期に入っていくのであった。
アルバム解説
1971年8月30日に発表されたブラザー/リプリーズ2作目となるオリジナル・アルバム。
アメリカでライブ・バンドとして再評価されつつあったこの時期、グループは新アルバムのため、前作『サンフラワー』のアウト・テイク曲を中心に新曲を加えた『ランドロックド』という新譜をレコード会社に提供するが、内容が“弱い”という理由によりワーナーから発売を拒否されてしまう。 そこで広報のジャック・ライリーの提案により、かつての"スマイル・セッション"でブライアンとヴァン・ダイクが作った傑作ナンバーである「サーフズ・アップ」の収録を決定、『スマイル』の挫折感を思い出したくないブライアンをどうにか説得して他のメンバーによりレコーディングを完成させる。 収録曲も大幅に入れ替えてようやくワーナーも納得、ライブ人気の後押しもあり全米チャート21位まで上がる久しぶりのヒットアルバムとなった。
西洋の油絵風のアルバムジャケットは馬に乗ったアメリカ先住民の若者の疲れきった姿が描かれた暗く陰鬱なもので、とてもビーチ・ボーイズの作品とは思えないもの。 この絵のモチーフは、ジェームズ・アール・フレイザーが作った「The End of the Trail」(旅路の終わり)という彫刻で、1915年のサンフランシスコの博覧会に展示されたものだ。 収録曲も環境問題や政治的な歌詞が目立ち、明るく情緒的な『サンフラワー』とは対照的なものとなった。 このらしくない作風は、グループを“ヘビー”で“ファンキー”なイメージに刷新したいと考えていたライリーの戦略だったと思われる。
ウィルソン兄弟末っ子のカール・ウィルソンが奮闘、ブルース・ジョンストンとアル・ジャーディンらもソング・ライターの才覚を発揮、マイク・ラヴやライリーも曲作りに参加している。 アルバム完成度はそれなりの水準をキープしてはいるものの、再び塞ぎこんでしまったブライアンの参加は3曲のみ、弟のデニスも映画『断絶』出演のために殆ど不参加。 前作と比べるとやや作品全体のレベルは低下しているものの、環境問題や反戦運動などの骨太な作風はグループの新境地を見せたものとも言える。
マイク・ラヴとアル・ジャーディンが作ったトロピカル・ムードのエコロジー・ソング。 リード・ボーカルはマイク、サビのシャウト気味のパートはアル。ワウワウ・ギターが印象的。 もともと環境問題に関心があった2人であったが、広報担当のジャック・ライリーの存在によりさらに触発されたものと思われる。
エンディングはハーモニカやウクレレが奏でられるのどかな曲調になり、美しいコーラスが歌われる。
2021年にリリースされた『フィール・フロウズ:サンフラワー&サーフズ・アップ・セッションズ 1969~1971』デラックスエディションにはボーカルが異なる別ミックスを聴くことができる。
カール・ウィルソンの作曲、ジャック・ライリーが歌詞を書いたもので、当時のグループの苦戦ぶりを見ていたライリーが人生を苦難の道に例えた内容の曲。 静かなバラードと激しいロック調が混在した構成で、抑制の効いたカールのリード・ボーカルは見事で、彼の最高傑作との呼び声が高い作品である。 ムーグ・シンセサイザーが大胆に使用されたサウンドも斬新。
アルバム発売前の71年5月24日に「ディードリ」とのカップリングでシングル・リリースされた。 不思議な事に同年10月11日にも「ティル・アイ・ダイ」とのカップリングでシングル・カットされている。チャートは最高位89位。
アル・ジャーディンと旧友のゲイリー・ウィンフリーが作った遊び心たっぷりのフォーク調の作品。 リード・ボーカルは冒頭とサビのみブライアン、その他をアルが歌っている。 車のクラクションや金属音、その他様々な効果音が入っている。この頃からアルは効果音好きであったのだ。
2021年にリリースされた『フィール・フロウズ:サンフラワー&サーフズ・アップ・セッションズ 1969~1971』のDisc4にはボーカルが異なる別ミックスが収録されている。
ブルース・ジョンストンが書いた非常に美しいラヴ・ソング。しっとりとしたリード・ボーカルも彼。 副題の1957年は、ブルースが最も素晴らしい時代と感じている年のようだ。
オープニングのマンドリンが印象的なヨーロピアン・テイストのサウンドは古き良き時代を表現したもの。ここでもワウワウ・ギターが大活躍している。 感傷的なサビではさりげないフルートが実にいい雰囲気を醸しだしている。 スタンダード・ナンバーとして多くのアーティストに取り上げられた名曲だ。 ブライアンとはまた違った作曲の才能を持つブルースの傑作曲であるが、何故かシングル・カットされなかった。
ロック好きで知られる俳優の髙嶋政宏氏(兄の方ね)が自身のステージでこの曲を歌っていた。中々のセンスである。
黒人コーラス・グループ、ロビンズの54年の「ライオット・イン・セル・ブロック・ナンバー・ナイン」という脱獄を図る囚人の曲に、マイクが新たに歌詞を書いたもの。 題材となっている学生運動はジャック・ライリーの影響であろう。 パトカーと消防車のサイレン音や手榴弾のような効果音が臨場感溢れる仕上がり。ホーン・セクションも中々のアレンジである。メガフォンを通したようなボーカルはマイク。
72年1月31日に「ドント・ゴー・ニア・ザ・ウォーター」とのカップリングでシングル・カット。チャート・インはしていない。
カールの書いた幻想的でサイケデリックな曲。 不明瞭で感覚的な詞はジャック・ライリーによるものだ。 フェージングがかけられた浮遊感のあるボーカルはカール、縦横無尽に飛び回るフルートが印象的。 「ロング・プロミスト・ロード」同様、ムーグ・シンセサイザーが大活躍している。 カールは間奏の大胆なファズ・ギターの他、ベースやムーグ・シンセサイザーも演奏している。
2001年に公開された映画『あの頃ペニー・レインと』のエンディングに使用された。
アル・ジャーディンが旧友ゲイリー・ウィンフリーと共作した小品。 歌詞は就職活動を支援する労働応援歌。 アルのリード・ボーカルは相当にフェージングが掛かっている。 彼らしいアコースティック・ギターをフィーチャーしたフォーク・ソング調の作品である。
小生はこの曲のメロディは昔のサントリーオールドウィスキーのCMソングにとても似ていると思う。CMソングは小林亜星氏の作曲だそうです・・・
2021年の『フィール・フロウズ~』デラックスエディションに別バージョンを聴くことができる。
ブライアンとジャック・ライリーが作った奇妙な教会音楽のような作品。 厳粛な雰囲気のオルガンをバックに、ライリーが真剣に歌っている。後半のフォルセットのボーカルはヴァン・ダイク・パークスによるもの。
人生を1本の木に例えた歌詞であるが、ライリーの影響を受けたものだろう、木を通して環境問題を訴えるような内容も含まれている。 効果音として鳥の鳴き声も入っている。
本アルバム・セッション中、唯一ブライアンが積極的に参加した曲。リード・ボーカルも彼。
69年11月に父親のマリーから“シー・オブ・チューンズ”の売却を聞いて半狂乱となったブライアン。 自分が作った作品を我が子のように愛していた彼の心は打ちひしがれ、再び深刻な鬱状態に陥ってしまう。 この曲は翌年の1月26日にレコーディングされている。 歌詞は当時の絶望感や恐怖心を吐露した内容で、その後何年も彼を苦しめる事になる心の葛藤を表現したもの。 コーラスとヴィブラフォンが際立つ、美しくも悲しい歌だ。 彼のキャリアの中でも屈指の名曲といえる。
98年の『エンドレス・ハーモニー』にはエンジニアのスティーブ・デスパーがアレンジした幻想的な別バージョンを収録。 ブライアンにとって思い入れのある曲なのだろう、95年のブライアンのソロアルバム『駄目な僕』には、透明感のある素晴らしいセルフ・カバーを聴く事が出来る。
イギリスの音楽雑誌『MOJO』2012年6月号ではビーチ・ボーイズ特集が組まれ、英国音楽関係者による人気投票が行われているが、堂々のトップ5に輝いている。
未完に終わった67年の"スマイル・セッション"でレコーディングされた、ブライアンとヴァン・ダイク・パークスが作った不朽の名作。 プロジェクトの中止で棚上げになっていた66年末のセッション・テープをベースに、71年春に新たなボーカルを追加録音して完成させた。 緊張感あるホーン・セクションが印象的な冒頭のパート、ブライアンのピアノの弾き語りによる美しい独奏のパート、エンディングのコーラス・パートと、3部構成になっている。
冒頭のパートはブライアンがボーカル録音を何度か試みたそうだがどうしてもうまく行かずに断念、最終的にカールがリード・ボーカルを担当。この曲の持つ切迫感を見事に歌い上げている。 鉄琴の調べが幻想的であるが、ベースとピアノ、パーカッションが淡々とした雰囲気を醸し出している。 「Columnated ruins domino..(円柱の遺跡が将棋倒しを引き起こす)」という歌詞の意味が解らないとしてマイク・ラヴが激しく非難した事が67年のプロジェクト中止の一因とも言われている。
中間部の美しいパートは66年のピアノの弾き語り録音を使用、ADTによるダブル・トラック処理を施したブライアンのボーカルが、希望に満ちたクライマックスを歌い上げる。
怒涛のコーラスが波のように続くエンディングは、カールのリード・ボーカルとメンバーのコーラスを追加している。 このコーラスは「チャイルド・イズ・ファーザー・オブ・ザ・マン」という別の曲のコーラス・パートを巧みに組み込んで完成させた。
まだ『スマイル』が制作中の67年にCBSの「インサイド・ポップ/ザ・ロック・レボリューション」というテレビ番組が放送され、ピアノを弾きながらこの曲を歌うブライアンが紹介された。 番組のMCであったレナード・バーンスタインは"ポップ・ミュージック界の要人"とブライアンを賞賛しているが、この曲については「1度聴いても理解できない」と言った。 バーンスタインはブライアンを“天才”とは言わなかったが、ブライアン=“天才”というイメージを世間が抱くきっかけとなった出来事である。
2021年発売の『フィール・フロウズ:サンフラワー&サーフズ・アップ・セッションズ 1969~1971』には73年の貴重なライブ音源が収録されている。冒頭の曲紹介では67年のテレビ番組の事が触れられていて、演奏、コーラスはかなり完成度が高い。
先の『MOJO』特集のトップ50人気投票では「グッド・ヴァイブレーション」を押さえ、見事ナンバー・ワンに輝いている。
全編ブライアンがリード・ボーカルを歌っているオリジナル・バージョンは、93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』と2011年の『スマイル・セッションズ』で聴くことができる。
ティル・アイ・ダイ
作曲・作詞:ブライアン・ウィルソン
僕は海に浮かぶコルク
荒れ狂う海の上を浮かんでいる
海はどれほど深いのだろうか?
海はどれほど深いのだろうか?
進む道を失った
おいおい
僕は滑り落ちていく岩
崩れながら山腹を転がっている
谷はどれほど深いのだろうか?
谷はどれほど深いのだろうか?
僕の魂は死に至る
おいおい
僕は風に吹かれる木の葉
もうすぐ吹き飛ばされるだろう
どのくらい風が吹くのだろうか?
どのくらい風が吹くのだろうか?
あぁ
僕が死ぬまで
僕が死ぬまで
そんなものさ、僕が死ぬまで ※
そんなものさ、僕が死ぬまで
そんなものさ、僕が死ぬまで
(※ 繰り返し)
対訳:管理人
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