カール・アンド・ザ・パッションズ - ソー・タフ
Carl And The Passions - "So Tough"


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72年5月に発表されたビーチ・ボーイズのオリジナル・アルバム。
ブライアン作「マーセラ」収録。



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プロデュース:ブライアン・ウィルソン, デニス・ウィルソン, カール・ウィルソン, マイク・ラヴ, アル・ジャーディン, リッキー・ファター, ブロンディ・チャップリン

Brother-Reprise Revel 1972.5.15


ヒストリー

サーフズ・アップ』のヒットの後、ニューヨークのセントラル・パークやカーネギー・ホールでのコンサートの成功で、再びビーチ・ボーイズに注目が集まりつつあった。 グループ内ではこの成功が広報担当のジャック・ライリーの功績と受け止められ、彼の影響力が次第に高まっていく。 長くグループの経営に尽力してきたマネージャーのニック・グリロであったが、金銭上のトラブルにより72年4月に解雇、ついにライリーが新たなマネージャーにのし上がる事になる(この一件についてグリロはライリーにハメられたと言っている)。

ライリーは南アフリカ出身の黒人グループ“フレイム”のメンバーであったブロンディ・チャップリン(ボーカル、ベース)とリッキー・ファター(ドラムス)という新メンバーをグループに迎えた(カールは69年にフレイムのアルバムをプロデュースしている)。 彼らの加入により、コンサートにおけるサウンドが更にタイトでファンキーなスタイルに変貌していく事になる。


アルバム解説

1972年5月15日にリリースされたオリジナル・アルバム。 69年の『20/20』の時と同じくメンバーが曲毎にプロデュースを担当。 タイトルの“カール・アンド・パッションズ”とはグループがレコード・デビュー前に一時的に使っていたバンド名であり、実際にカールがグループの中心的役割を果たしていることを示すもの。 ブロンディ・チャップリンとリッキー・ファターの加入によりロック色の強い作品やゴスペル風の教会音楽などが収録されていて、従来のイメージを一新するもの。

奇妙な事にこのアルバムはキャピトル時代の名盤『ペット・サウンズ』と抱き合わせの2枚組みとして発売された。 ワーナーは『ペット・サウンズ』から『20/20』までの5枚のスタジオ・アルバムの権利がグループにあることを知り、新作とカップリングするという信じられない愚行に走ったものと思われる(汗;)。

ブライアンはコカインを常用する世捨て人となり、気が向いた時にしかレコーディングに参加していない。 結果、ビーチ・ボーイズらしさが消えたものになり、全米チャート50位と不発、グループのイメージ・チェンジを図ろうとしたライリーの狙いは失敗に終わってしまう。

確かにビーチ・ボーイズらしくないアルバムではあるが、個々の作品の出来は良く、小生は個人的に大好きなアルバムである。 とはいえ、一般的にはビーチ・ボーイズ・ファンからの評価も低く、異端視されている音楽性は、グループの低迷期を告げるものであろう。 そしてブルース・ジョンストンはライリーとの確執で7年間在籍したグループを脱退、本作のレコーディングには殆ど携わっていない。

小生の好き度

★ ★ ★ ★ ★

ブライアンが友人のタンディン・アルマーと一緒に作った「ベアトリス・フロム・ボルチモア」という曲をベースに、ジャック・ライリーが作詞を手伝って完成させた作品。 当時のブライアン自身を歌ったようないくぶん自虐的な歌詞ではあるが、言葉遊びのように韻を踏んだ勢いのある傑作ロック・ナンバーに仕上がっている。

スライド・ギターやフィドル、バンジョーなどがカントリー・タッチの雰囲気を醸し出しており、躍動感溢れるドラムとタックピアノの響きが心地良い。 カールとブライアンの兄弟による息の合ったツイン・ボーカルも爽快だ。 カールのシャウト気味に力んだ歌い方もさることながら、ブライアンのはしゃぎっぷりがすごい!

シングルとしてアルバムと同時にリリースされたがチャート・インせず。B面はデニス作の「カドル・アップ」。 ブライアンとカールの共同プロデュース作品。

2021年にリリースされた『フィール・フロウズ:サンフラワー&サーフズ・アップ・セッションズ 1969~1971』には本作のカラオケが収録されている。

作者:B.Wilson - J.Rieley

リード:Carl, Brian


ピアノやオルガンがジャズ・フィーリングたっぷりなアップ・テンポのロック曲。 新メンバーのリッキー・ファターとブロンディ・チャップリンが作ったもので、ビーチ・ボーイズらしくないタイトな作風である。 狂おしい彼女への想いを歌った内容で、ドラムが曲をぐいぐい引っ張っていく、いかにも70年代っぽいサウンド。

この年、ドラマーのデニスは泥酔して自らガラスに突っ込んで腕に大怪我を負ったため、本作でのドラム・プレイはリッキーによるものだ。

リード・ボーカルはブロンディ、サビの一部はリッキーが歌っている。 リズム・セクションが全面に出たサウンドは好感が持てるのだが、せっかくのブロンディのボーカルがリッキーのドラムに完全に負けていて、所々聴こえずらい事態に(!?)。 プロデュースはリッキー。

作者:R.Fataar - B.Chaplin

リード:Blondie Chaplin, Ricky Fataar


コーラスやピアノ、ハモンド・オルガンのアレンジがまるでゴスペル・ソングのよう、おそらく本アルバム中最も浮いている作品であろう。 宗教的な歌詞にはイエスやクリシュナ、マハリシまで登場するが、TM(超越瞑想)に影響されたマイクの嗜好が出たもの。 リード・ボーカルはマイクとブロンディ。ブロンディのソウルフルな歌声はそれなりに合っているが、グループの新たなチャレンジは正直成功しているとは言いがたい。

プロデュースはカール・ウィルソンとアル・ジャーディン。

作者:B.Wilson - A.Jardine - M.Love

リード:Mike, Blondie Chaplin


カールのシャウト気味のリード・ボーカルが素晴らしい、ファンキーなロック曲。

64年にブライアンが作った「オール・ドレスド・アップ・フォー・スクール」の一部を使って69年のサンフラワー・セッションで「アイ・ジャスト・ゴット・マイ・ペイ」を録音したがボツになり、のちにタンディン・アルマーの協力を得てこの曲に改作された。 最終的にジャック・ライリーが新たな歌詞を書いたが、彼には珍しくシンプルな内容である。 タイトルのマーセラとは当時ブライアンお気に入りのマッサージ店の店員である。 リード・ボーカルはカールとマイク。ビーチ・ボーイズらしいコーラスにはブライアンの声も聴こえる。

チター(ハープとギターの中間的な楽器)の鮮やかなサウンドや間奏のスライド・ギター、エンディングのソリのベルが印象的。 この素晴らしいプロデュースはカールによるものだ。

72年6月26日に次曲の「ホールド・オン・ディア・ブラザー」とのカップリングでシングル・カットされたがチャート110位と撃沈した。

2021年の『フィール・フロウズ:サンフラワー&サーフズ・アップ・セッションズ 1969~1971』デラックスエディションではボーカル・トラックを聴くことができる。

作者:B.Wilson - T.Almer - J.Rieley

リード:Carl, Mike


リッキー・ファターがプロデュースした哀愁ただようワルツ調の傑作曲。 リッキーとブロンディの作品で、次回作収録の「リーヴィング・ディス・タウン」に通じるバラードである。 故郷の南アフリカにいるリッキーの兄弟に思いを馳せた内容で、リード・ボーカルはブロンディ。

ブロンディとカールによる印象的な艶っぽいペダル・スティール・ギターが実にかっこいい。 ビーチ・ボーイズらしくない作風ではあるが、熱唱スタイルの力作である。

作者:R.Fataar - B.Chaplin

リード:Blondie Chaplin


デニスがプロデュースしたスロー・テンポな愛のポエム。

オーケストラ・アレンジはダリル・ドラゴンによるもので、スケールの大きな賛美歌のような趣を持つ作品に仕上がっている。 ただ、素朴で荒削りな手作り感がデニスの魅力でもあり、繊細で深みのある彼の歌声をもっとフューチャーしても良かったのでは、と思ってしまう。大袈裟すぎるオーケストレイションはこの曲にそぐわない気がするからだ。

天使とともに昇天してしまうような独特の余韻を残すもので、個性派揃いの作品群の中でも特に異彩を放っている。

作者:D.Wilson - D.Dragon

リード:Dennis


アル・ジャーディンがプロデュースした美しいラヴ・ソング。アル、カール、マイクの共作。

マハリシのTMに影響された宗教的な内容であるが、ビーチ・ボーイズらしいサウンドで、しっとりとしたコーラスを聴くことが出来る。 リード・ボーカルも3人によるもので、特に伸びのあるカールのボーカルが絶品、まるで天使の歌声のようだ。 フェード・アウトがやけに長いエンディングではマイクが繰り返し「Jai guru dev」と呟くように歌っている。これはビートルズの「アクロス・ザ・ユニヴァース」の詩を引用したものだろう。

2007年のベスト・アルバム『ザ・ウォームス・オブ・ザ・サン』にも収録された。

作者:A.Jardine - C.Wilson - M.Love

リード:Alan, Carl, Mike


デニスが妻のバーバラに捧げたラブ・ソングで、プロデュースも彼によって行われた。 デニスらしい素朴かつ実直な愛の詩で、魂の叫びのような情感溢れる彼の歌声が胸を打つ。 「メイク・イット・グッド」同様にダリル・ドラゴンによるオーケストラ・アレンジが施され、クラシカルな雰囲気を持った壮麗優美な佳曲に仕上がっている。 後半のアレンジはやや過剰な印象を与えるものの、デニスらしい素晴らしいバラードである。 個人的には全編デニスのピアノの弾き語りバージョンも聴いてみたい、そんな作品だ。

当時デニスはソロ・アルバムの発表を考えていて、この曲の他にも「バーバラ」という美しいピアノ曲を書いていた。惜しくも未発表となった「バーバラ」は98年のサントラ『エンドレス・ハーモニー』で聴く事ができる。こちらも素晴らしい作品なので機会があれば是非1度。

作者:D.Wilson - D.Dragon

リード:Dennis




ユー・ニード・ア・メス・オブ・ヘルプ・トゥ・スタンド・アローン

作曲:ブライアン・ウィルソン、作詞:ジャック・ライリー


柔らかなそよ風がほしい
俺の風向計が回り続けるように
ありったけの太陽の光がほしい
俺の日時計が進み続けるように
草が茂るためには土が必要なんだ
火を燃やすためにはキャンドルが必要なんだ

俺の信念なんて薄っぺらなもの
一人ぼっちでどん底の俺には
助けが必要なのさ

火の輝きがほしい
寒い心を暖めるように
はじけ飛ぶ雨だれがほしい
乾いた気持ちを洗い流すように
誰か俺の電話を鳴らしてくれ
俺が歌うにはあんたの曲が必要なんだ

たのむから気づいてくれ
俺は半分も生きられない
この孤独などん底状態から抜け出すんだ

(彼女は俺を知らない) ※
(彼女はそれを知らない)
(彼女は知らない)
(彼女は俺を知らない)
(彼女はそれを知らない)
(彼女は知らない)
(彼女は俺を知らない)
(彼女はそれを知らない)

(※ 繰り返し)

あんたの笑顔の温もりがほしい
悲しさで凍りついた心を溶かすため
肩を貸してくれる手助けがほしい
今日から明日へ歩むために
立ち直るにはあんたの強さが必要なんだ
俺がまともになるにはあんたの信頼が必要なんだ

俺の信念なんて薄っぺらなもの
一人ぼっちでどん底の俺には
助けが必要なのさ

(※ 繰り返し)

(※ 繰り返し)

対訳:管理人





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