スマイル・セッションズ
Smile Sessions


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2011年8月にブライアン・ウィルソンのプロデュースで発表されたビーチ・ボーイズのアルバム。
44年前の幻のアルバム『スマイル』の正式リリース版として話題となった。
「英雄と悪漢」、「キャビン・エッセンス」、「サーフズ・アップ」収録。



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プロデュース:ブライアン・ウィルソン

Capitol Revel 2011.8.31

曲目リスト

1. アワー・プレイヤー Our Prayer
2. ジー Gee
3. 英雄と悪漢 Heroes And Villains
4. ドゥ・ユー・ライク・ワームス(ロール・プリマス・ロック)Do You Like Worms (Roll Plymouth Rock)
5. アイム・イン・グレート・シェイプ I'm In Great Shape
6. バーンヤード Barnyard
7. マイ・オンリー・サンシャイン(ジ・オールド・マスター・ペインター/ユー・アー・マイ・サンシャイン)My Only Sunshine (The Old Master Painter / You Are My Sunshine)
8. キャビン・エッセンス Cabin Essence
9. ワンダフル Wonderful
10. ルック(ソング・フォー・チルドレン) Look (Song For Children)
11. チャイルド・イズ・ファーザー・オブ・ザ・マン Child Is Father Of The Man
12. サーフズ・アップ Surf's Up
13. アイ・ウォナ・ビー・アラウンド/ワークショップ I Wanna Be Around / Workshop
14. ヴェガ・テーブルズ Vega-Tables
15. ホリデイズ Holidays
16. ウィンド・チャイムズ Wind Chimes
17. ジ・エレメンツ:火(ミセス・オ’レアリーズ・カウ) The Elements: Fire (Mrs. O'Leary's Cow)
18. ラヴ・トゥ・セイ・ダダ Love To Say Dada
19. グッド・ヴァイブレーション Good Vibrations
  [ボーナストラック][bonus track]
20. ユーアー・ウェルカム You're Welcome
21. 英雄と悪漢(ステレオ・ミックス) Heroes And Villains stereo mix
22. 英雄と悪漢セクションズ(ステレオ・ミックス) Heroes And Villains sections stereo mix
23. ヴェガ・テーブルズ(デモ) Vega-Tables demo
24. ヒー・ギヴズ・スピーチズ He Gives Speeches
25. スマイル・バッキング・ヴォーカル・モンタージュ Smile Backing Vocals Montage
26. サーフズ・アップ 1967(ソロ・バージョン) Surf's Up 1967 (Solo version)
27. サイコデリック・サウンズ:ブライアン・フォールズ・イントゥ・ア・ピアノPsycodelic Sounds:Brian Falls Into A Piano

ヒストリー

1999年になるとブライアンはポップ・グループのワンダー・ミンツやギタリストのジェフリー・フォスケットらと共に精力的なツアーをこなすようになる。 そして2000年には名盤『ペット・サウンズ』の全曲をライブで完全再現する、“ペット・サウンズ・ライブツアー”を敢行。 ライブを通し、自分の曲がいかに愛されているか、ブライアン自身が肌で感じることになる。 そんなあるツアーの楽屋での出来事。ブライアンは突然ピアノで「英雄と悪漢」を弾き始めたという。 少し前のパーティーでデビッド・リーフの彼女がブライアンに「英雄と悪漢」をリクエストした事がきっかけとなったらしいが、自分を挫折させたあの忌まわしい記憶の象徴的な曲に対峙する事で、ある思いが去来する。

「『スマイル』を完成させよう」、30年近くも心を閉ざしてしまった根源に立ち向かおうと一大決心したブライアンは、彼の良きサポーターたち、温かい家族、そしてかつての共作者、ヴァン・ダイク・パークスの協力により、『スマイル』をステージで演奏するという驚くべきプロジェクトに挑むこととなる。 ヴァン・ダイクにも同様の想いがあったのだろう、2人で未完成パートの書き足しも行われ、難問だった曲の順番も決め、2004年、『スマイル・ツアー』のライブ演奏が実現する。『ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル』と題されたCDも発表され、世界中のファンを驚かせたのだ。 このブライアンの感動的で勇気ある行動は、スマイルDVD収録の『ビューティフル・ドリーマー』というドキュメント映画で詳しく語られている。 ロンドンのコンサート初演が無事成功した瞬間、カメラが捉えた観客席のヴァン・ダイクの虚脱と感慨が入り混じった表情は、ファンにとって胸が詰まるシーンであった。

さて、ブライアンによる『スマイル』が完成したものの、彼は常に「あの声じゃなきゃ駄目なんだ」と言っており、ビーチ・ボーイズによる『スマイル』の完成に心を募らせていた。 そして43年前のセッション・テープに向き合い、当時の音源を繋ぎ合わせ、2011年8月31日にブライアンのプロデュースで遂にビーチ・ボーイズ版のスマイルが『スマイル・セッションズ』という形でリリースされた!


アルバム解説

2011年8月31日にキャピトル・レーベルからリリースされたアルバム。 新作では無いが、オリジナル・アルバムである。 全米27位を記録。 "通常版"の他に、2枚組の“デラックス・エディション”、CD5枚、アナログLP2枚、SP2枚の”コレクターズ・ボックス”の計3種類がライン・ナップされている。

新たにレコーディングする気満々だったマイク・ラヴやアル・ジャーディンに対し、あくまでオリジナル音源にこだわったブライアンの主張の通り、全て当時の音源のみで構成されている。 又、曲順やアレンジは2004年の『ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル』に準じているものの、未完成だったボーカルやコーラスについては欠落したままである。 小生としては、完成版といえる2004年の『ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル』と是非聴き比べて頂きたい。色々な発見があるはずだ。

もし67年当時に完成していたら? と論じるのは無意味である。 ここに収録された楽曲は、間違いなく唯一無二の本物なのである。 過去のトラウマを乗り越え、敢えて巨大化した伝説に立ち向かったブライアンの勇気こそ賞賛に値するものなのだから。

通常このような伝説的な作品がリリースされると賛否あるのが常であるが、本作はオーディエンスから熱烈に支持された事を付け加えておこう。

小生の好き度

★ ★ ★ ★ ★

アカペラで歌われる教会音楽をイメージさせるような非常に美しい旋律を持つ作品で、いきなり始まるコーラスに戦慄が走る。タイトルは「我らの祈り」という意味。

コーラスをオーバーダビングしたものが69年のアルバム『20/20』に収録されたのが初の公式リリース。本作に収録されたオーバーダビングする前のオリジナル・バージョンは、93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』で初めて公開されている。

デラックス・エディションとコレクターズ・ボックスのDisc2には、ブライアンがメンバーに指示を出しながらコーラスを重ねていくやり取りを生々しく再現している(「この曲はアルバムのイントロだ」というブライアンの会話も聞こえる)。

作者:B.Wilson

リード:Group


ピアノの演奏をバックにメンバーのコーラスで歌われる小品で、初登場は93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』の「英雄と悪漢(セクションズ)」中の一節として聞く事が出来る。

オリジナルは50年代前半に活躍した黒人コーラス・グループのザ・クロウズ、53年のヒット曲。エンディングにトロンボーンの印象的なフレーズ(これは「英雄と悪漢」の場面転換用に頻繁に使われる重要フレーズ)が挿入され、切れ間無く「英雄と悪漢」へ繋がっていく。

作者:W.Davis - M.Levy

リード:Group


ブライアンとヴァン・ダイク・パークスが手がけた昔の西部を舞台にした抒情詩で、先住民族を抑圧してきたアメリカの歴史とヴェトナム戦争を重ね合わせた内容を持つ。 もともとは"スマイル・セッション"の中核をなす壮大な組曲になる予定だった作品で、ブライアンの創作活動の中でも最も重要な労作となっている。

初公開はメンバーの意見を取り入れながら自宅スタジオでボーカルのレコーディングを追加して67年のアルバム『スマイリー・スマイル』に収録、同時に22枚目のシングル曲としてもリリースされた。90年には"2in1"シリーズ『スマイリー・スマイル/ワイルド・ハニー』のボーナス・トラックで初期テイクを聴くことが出来る。

今回の構成は67年バージョンをベースに、中間部に初期テイクの「In The Cantina~」と歌われるパートが挟み込まれている点と、エンディングに93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』に収録された「英雄と悪漢(セクションズ)」の上昇するコーラスと流麗なストリングスのインストが繋がれている新しい構成。最後に前曲「ジー」の印象的なトロンボーンのコーダで締めくくられる。 リード・ボーカルはブライアン、「In The Cantina~」の最初のフレーズはマイクによるもの。

コレクターズ・ボックスのDisc2には、この曲の膨大なボーカル・セッションが納められており、この作品の素材から実に多くの曲が派生した事を窺い知る事が出来る。

作者:B.Wilson - V.D.Parks

リード:Brian, Mike


84年のドキュメント・ビデオ『アン・アメリカン・バンド』でこの曲のミュージック・クリップの一部が公開されたが、全貌は93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』で明らかになった。ブライアンとヴァン・ダイクが作った風変わりな作品で、ここに収録されたものは93年版とは異なるアレンジで編集されている。

「英雄と悪漢」から派生した曲で、アメリカ東海岸から始まりハワイを終着地とするアメリカの歴史を描こうとした"スマイル"のコンセプトをよく表わした内容になっている。

ティンパニーとギターのイントロから、ベースとウクレレが奏でるハワイアン風の伴奏に乗ってブライアンの陰鬱なボーカルで始まる。「英雄と悪漢」のテーマのハープシコードによるオルゴール・メロディと“ウガガー”と聞こえるアメリカ先住民族の儀式をイメージしたフレーズが続く。 2回目のオルゴール・パートでは、リズミカルなベース音をバックに「英雄と悪漢」でカットされた「Bicycle Rider~」というアメリカ・インディアンを迫害する白人への警告とも受け取れる歌詞が歌われている。そして最後はスチール・ギターをバックにブライアンがハワイ語の歌詞を歌う浮遊感のある幻想的なパートでエンディングを迎える。ビデオ『アン・アメリカン・バンド』には、このエンディングのメロディをピアノで黙々と弾いているブライアンの映像を確認できる。 『ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル』版では冒頭のイントロ8小節に歌詞が付いていたが、その部分のメイン・ボーカルはレコーディングされていなかったようで、本作では伴奏とコーラスのみ。

“プリマス・ロック”とは1620年にメイフラワー号がプリマスに上陸した際に清教徒たちが初めて踏んだ岩の事で、マサチューセッツの観光名所になっている所(因みにメイフラワー号出発地点のイギリスのイングランド南西部の港町の地名もプリマス)。 又、マサチューセッツ州プリマス原産の食用ニワトリに“プリマス・ロック”という品種がいて、両方を掛けているといわれている。「Do You Like Worms(ミミズは好き?)」というタイトルは鶏を意識したもので、67年にキャピトルが用意していた"ブックレット"にはこの曲のイラストにミミズが描かれていた。

2022年のデビュー60周年記念版『ザ・ベリー・ベスト・オブ・ザ・ビーチ・ボーイズ:サウンド・オブ・サマー』のデラックスエディションには初のステレオ・ミックスが収録された。一聴の価値ありです。

作者:B.Wilson - V.D.Parks

リード:Brian


"スマイル・セッション"で最も謎だった曲。ブライアンがキャピトルに提出した手書きの曲目リストに記載されてはいるものの、メロディと歌詞については長い間不明であった。 98年の『エンドレス・ハーモニー』収録の「英雄と悪漢(デモ)」にこの曲の一節が歌われている事で、初めてその存在が明らかになった。ここに収録されたのは、初登場となるワルツ調のバッキング・トラックに、「英雄と悪漢(デモ)」から抽出した音声を被せている。 大自然の中で農業に打ち込む様子が歌われており、当時のブライアンの関心事であった“健康志向”が作品に反映しているようだ。

04年の『ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル』版では「アイ・ウォナ・ビー・アラウンド/ワークショップ」の直前に配置されていたが、やはり「英雄と悪漢」から派生した作品ということで、この位置に変更されたと思われる。

作者:B.Wilson - V.D.Parks

リード:Brian


動物の鳴声(鳴きまね)の効果音が入った昔の西部の農場を歌ったC&W調の小品。この曲も「英雄と悪漢」から生まれたもので、今回が初めてのリリース。 『エンドレス・ハーモニー』収録の「英雄と悪漢(デモ)」で「別のセクションがある」という説明の後にこの曲のパートが歌われており、ブライアンのピアノの弾き語りにヴァン・ダイクも加わった動物の鳴きまねも聴く事が出来る。

「アイム・イン・グレイト・シェイプ」同様にバッキング・トラックのみ完成していたようで、ボーカル・パートは「英雄と悪漢(デモ)」から流用されている。

作者:B.Wilson - V.D.Parks

リード:Brian


前曲「バーンヤード」から切れ間なく続くメドレー形式の曲。

前半のストリングスで奏でられるインストゥルメンタル部分は、ヘビン・ギレスピーとヘビン・スミスによる49年の作品「オールド・マスター・ペインター」で、ペギー・リーやフランク・シナトラなど多くのアーティストに取り上げられているスタンダード・ナンバー。 続く「ユー・アー・マイ・サンシャイン」はジミー・デイビスとチャールズ・ミッチェルの39年の作品(40年にヒット)で、62年にはレイ・チャールズが大ヒットさせている。陽気なオリジナルとは正反対のマイナー調のアレンジで、デニスのリード・ボーカルも陰鬱である。 最後は奇妙だが何故か心惹かれるストリングスやハーモニカが印象的なカントリー調のインストでエンディングを迎える。この部分は元々「英雄と悪漢」の1つのパートであったが、コード進行とコーラスは明らかに「バーンヤード」である。

作者:H.Gillespie - J.Davis - C.Mitchell

リード:Dennis


アメリカ開拓時代をモチーフにした3つのパートから成る組曲風の作品。ブライアンとヴァン・ダイクの共作。「キャビン・エッセンス」とは丸太小屋に棲む精霊の事で、日本の座敷童子ざしきわらしのようなものらしい。 初公開は69年の『20/20』アルバムに綴りを変えて「キャビネッセンス」としてリリースされている。その時とほぼ同じアレンジであるが、ボーカルがシングル・トラックになっている。

最初のパートは、バンジョーやハーモニカがのどかな片田舎の雰囲気を醸し出すパートで(ドゥイン、ドゥインという奇妙なコーラスが面白い)、リード・ボーカルはカール。続く「Who run's iron horse(誰が機関車を走らせた)」と歌われる大合唱のパートでは、「カンカン」という警笛やノコギリ音を想わせるストリングスが圧巻。 最後のハープシコードをバックに、釣瓶落つるべおとしのように突如暗転するパートは陰鬱で、「Over and over, the crow cries uncover the cornfield(何度も何度もカラスが鳴いてトウモロコシ畑がむき出しになる)」はマイクのリード・ボーカル。 エンディングの不気味な不協和音や地の底から聞えてくるようなチューバ(トロンボーン?)が文明に対する大自然の怒りや警告を表現しているようだ。

デラックス・エディションのDisc2には脅威のバッキング・トラックが収録されていて、チェロや金管楽器の奏でる素晴らしい音宇宙を楽しむ事が出来る。コーダ部分の不気味なバンジョーやマンドリン(バラライカ?)など隠されたサウンドは必聴!! 2011年7月15日に「ワンダフル」とのカップリングでシングル・カットされている。

作者:B.Wilson - V.D.Parks

リード:Carl, Mike


ハープシコードとフレンチ・ホルンが美しい、ブライアンとヴァン・ダイクの共作曲。"スマイル・セッション"でレコーディングされたものとは全く異なるアレンジで新たにレコーディングし直され、67年の『スマイリー・スマイル』に収められた。

オリジナル・バージョンは93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』で初めて公開されている。ここに収録されたものは後半のコーラスが93年版より厚めで、折り重なるようなハーモニーが素晴らしい。リード・ボーカルはブライアン、ヨーデル風のバック・コーラスも彼によるもの。 ヴァン・ダイクの歌詞は秘密めいていて超現実的な幻想世界を描いている。 95年のブライアンのソロ・アルバム『駄目な僕』にもオリジナルと同じアレンジでセルフ・カバーしている。

作者:B.Wilson - V.D.Parks

リード:Brian


前曲「ワンダフル」から切れ間なく始まる、ブライアンの才能が感じられる初登場の作品。

ハープシコードと鉄琴に彩られたきらびやかなサウンドが特徴的なインストゥルメンタル曲で、ミュートを効かせたクールなトランペット・ソロやタイトなドラムが緊張感を高める。間奏のフレーズの一部は「グッド・ヴァイブレーション」に使われた。 『ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル』版では「ソング・フォー・チルドレン」というタイトルで新たな歌詞が付けられたが、最初から考えられていたかのようなぴったりのメロディラインが付けられ創意に満ちた作品に仕上げられている。曲の終盤、1912年の「12番街のラグ」という有名なディキシーランド・ジャズのフレーズが登場する。

作者:B.Wilson


次曲「サーフズ・アップ」に似た雰囲気を持つ、ブライアン作のインストゥルメンタル・ナンバー。元々「サーフズ・アップ」の前奏曲として考えられていたようだが、後に改作され「サーフズ・アップ」のエンディング部分に組み込まれた。

緊迫したピアノの伴奏の中、「ルック」以上にスリリングなトランペット・ソロを聴く事ができる。『ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル』版では「ルック」同様に新たな歌詞とメロディが加えられている。コレクターズ・ボックスのDisc3にはファズ・ギターやヴィブラフォンが際立つこの曲のセッション風景が収められている。 ホワホワしたトランペットの響きなどが68年の「リトル・バード」に酷似しているが、きっとデニスはこの曲からインスパイアされたのだろう。 タイトルのチャイルド・イズ・ファーザー・オブ・ザ・マンとは、日本の故事“三つ子の魂百まで”のような意味を持っているらしい。

作者:B.Wilson - V.D.Parks


ブライアンとヴァン・ダイクが作った『スマイル』のハイライト的な傑作曲。 初公開は71年のアルバム『サーフス・アップ』に収録され、メイン・パートのリード・ボーカルをカール・ウィルソンが担当した。ピアノの弾き語りによるブライアンのリード・ボーカル・テイクは93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』で初めてリリースされている。

シングル「グッド・ヴァイブレーション」が世界中で大ヒットしていた67年当時、CBSのテレビ番組「インサイド・ポップ/ザ・ロック・レボリューション」でこの曲が紹介され、MCのレナード・バーンスタインはポップスの新たな可能性について言及している。 クラシック界の巨匠、バーンスタインは、殆どのロックやポップスは聴くに値しないと前置きしながら、僅かな例外として「サーフズ・アップ」を絶賛している(ジャーナリストのマイクル・ヴォスによれば、バーンスタインは当時『ペット・サウンズ』に夢中になっていたそうだ)。

ここに収録されたものは、"スマイル・セッション"時のバッキング・トラック(71年バージョンで使用したバッキングとは別)に、先のブライアンによるリード・ボーカルをミックスしたもの。歌詞が一部欠落しているため、その部分を71年版のカールのボーカルで補っている。 04年の『ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル』版では中間部のブライアンのピアノ独奏パートに美しいストリングス・アレンジが追加されている。

作者:B.Wilson - V.D.Parks

リード:Brian


初登場のインスト曲。前半のジャズ調のアンサンブルは、アメリカの代表的なポピュラー・シンガーのトニー・ベネット、59年のヒット曲。

レコーディングの合間、スタジオ・ミュージシャン"レッキング・クルー"の面々により、自然と始まったジャム・セッションのような趣がある。『ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル』版にあるボーカル部分は録音されていなかったようだ。 後半のドリルやトンカチなどの効果音は、「アイ・ウォナ・ビー・アラウンド」の歌詞“壊れた心のかけら”を修復する意味が込められているそうだ。この効果音の一部は69年のアルバム、『20/20』収録の「恋のリバイバル」のエンディングに数秒使われた。 セッション・ベーシストのキャロル・ケイはこの効果音について、「ジ・エレメンツ:火」のパートで焼け落ちた町を再建する音楽だったと主張している。

作者:J.Mercer - B.Wilson


ブライアンとヴァン・ダイクの共作曲で、野菜品評会のような催し物の雰囲気を持つ作品。リード・ボーカルはアル・ジャーディン。ヴェガ・テーブルズとはヴァン・ダイクによる造語。

初公開は67年の『スマイリー・スマイル』で「ヴェジタブル」のタイトルで発表されたが、オリジナルとはまったく異なるアレンジが施され、野菜をかじる効果音まで入っていた。オリジナル・バージョンは93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』で初めて発表されている。 ビートルズのポール・マッカートニーも居合わせたというセッションはたくさんの野菜や豆類が並べられたスタジオの中で行われ、アンプラグド・ライブのような趣のある仕上がりとなった。中間部の「Eat a lot sleep a lot..(沢山寝て、沢山食べて、)」と歌われるパートはアカペラにアレンジされて『ワイルド・ハニー』の「ママ・セズ」として67年に発表されている。 本作に収められたものは93年バージョンをベースに、『スマイリー・スマイル』バージョンのアカペラ・パートなどが加えらた新しいミックスである。 エンディングには01年の未発表音源集『ホーソーン,カリフォルニア』でも一部聴ける、「英雄と悪漢」と同じコード進行によるコーラス・パートが登場し、ストリングスとブライアンの奇妙なハミングが不思議な余韻を残したものになっている。

ポールが訪問した67年4月10日、ブライアンはレコーディングについて「『英雄と悪漢』という曲を作っている。『グッド・ヴァイブレーション』を超えるかもしれない。でもメンバーからクレームがあったりして難航しているんだ」と吐露している。ポールは帰り際、アルバムの完成を急ぐように言った。夏にはビートルズの新作が発表されるからと。

作者:B.Wilson - V.D.Parks

リード:Alan


マリンバをフィーチャーしたC&W調のチャーミングな作風を持つ初登場のブライアンとヴァン・ダイクの共作曲。 フィドルやホイッスルの効果が面白いインストゥルメンタル・ナンバー。 エンディングに『スマイリー・スマイル』の「ウインド・チャイムズ」のチャペル風コーダが使用されて、次曲の「ウィンド・チャイムズ」に繋がっている。

04年の『ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル』版では「ドゥ・ユー・ライク・ワームス(ロール・プリマス・ロック)」のフレーズを含む新たな歌詞とメロディが付けられ「イン・ア・ホリデイ」というタイトルで発表されている。

因みに、この曲のコーダ直前のマリンバの旋律は、01年のブライアンのソロ・アルバム、『イマジネーション』収録の「ハッピー・デイズ」に引用されている。

作者:B.Wilson - V.D.Parks


マリンバをバックにカールがゆったりと歌うカリプソ風の作品。 この曲も67年の『スマイリー・スマイル』収録にあたり、アレンジを大幅に変えた奇妙なバージョンが再レコーディングされている。オリジナル・バージョンは93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』で初めて公開された。 本作では93年バージョンがベースであるが、初登場のメロディを含むインストが最後に追加されている。

ブライアンはこの曲を元に「キャント・ウエイト・トゥー・ロング」というインストゥルメンタル曲を手がけ、スマイル制作中止の後もレコーディングを続けていたようだ。

作者:B.Wilson

リード:Carl


ブライアンは古代ギリシャの哲学者エンペドクレスが説いた宇宙の万物は大地・空気・火・水の四元素からなるという考えに基づいた4つのパートから成る「ジ・エレメンツ」という組曲を作ろうとしていた。この曲は「ジ・エレメンツ」の"火"のパートになる予定だった作品。 不気味なサイレン音とうめき声を想わせるストリングス、激しいドラムス、ベース・ギター、ファズ・ギターが異様な雰囲気を醸し出す。途中『スマイリー・スマイル』収録の「フォール・ブレイクス・アンド・バック・トゥ・ウィンター」のコーラスが挿入されている。

タイトルの“ミセス・オ’レアリーズ・カウ”(オレアリー夫人の牝牛)とは、1871年10月に発生したシカゴ大火の出火原因と言われている都市伝説、オレアリー夫人の所有する気性の荒い牝牛が牛舎のランプを蹴飛ばしたという話から引用されたもの。今も伝説の牝牛の銅像がシカゴ市内のモニュメントになっている(この出火原因の真偽は定かでは無いが、当時の新聞で報じられ、夫人は亡くなるまで罪の意識で苦しんだという)。

この曲にまつわるエピソードは"スマイル・セッション"における最も奇妙なものの1つで、ブライアンはレコーディング当日、演奏者全員におもちゃの消防士ヘルメットを被らせ、スタジオ内に紙を燃やしたバケツを持ち込んで煙の匂いを嗅ぎながらセッションに臨んだという。 この曲にのめり込んでいたブライアンは、完成テイクの出来栄えに満足しながら「この曲のタイトルを"ミセス・オ’レアリーズ・カウ"と名づけよう、みんな怖がるぞ」と言っていたそうだが、一番怖がっていたのはブライアン本人であった。セッション当日、スタジオ近くの倉庫が全焼し、その週のロサンゼルスの火災件数が異常に多かった事を後で知ったブライアンはこの曲に恐れを抱きテープを地下の倉庫に封印してしまったそうだ。 2004年のスマイル・ツアーでこの曲のリハーサル中、いきなり電源が落ちるアクシデントが発生した。たまたまブライアンが居合わせなかった事が幸いしたが、何か霊的なものを感じてしまう。

初公開は84年のビデオ『アン・アメリカン・バンド』で、消防士の格好をしたメンバーを捉えたプロモーション・ビデオを見る事ができるが、何かに取り漬かれたようなブライアンの目つきは異常であった。 93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』にパフパフラッパやホイッスルのイントロ部分が「英雄と悪漢(イントロ)」として公開されている。また、デラックス・エディションのDisc2とコレクターズ・ボックスのDisc3にはセッション風景が納められていて、エンディングのファズ・ギターやドラム、ベースに対し細かな指示出しをして曲を完成させていくブライアンのストイックな様子が確認できる。

作者:B.Wilson


組曲「ジ・エレメンツ」の水のパートになる予定だった作品。「Love To Say Dada(パパと呼ぶのが好き)」というタイトルは、本作が当初、赤ちゃんをモチーフにした曲を想定していたからだといわれている。ブライアンは"スマイル・セッション"が中止された後もこの曲のレコーディングをしばらく継続していた。 この曲を発展させた完成版は、70年の『サンフラワー』に「クール・クール・ウォーター」として発表されている。元ネタの「ラヴ・トゥ・セイ・ダダ」は、93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』で「アイ・ラヴ・トゥ・セイ・ダダ」というタイトルで公開されている。

本作に収録されたものは、冒頭に「クール・クール・ウォーター」のサイケ調のアカペラ・パートを配し、「アイ・ラヴ・トゥ・セイ・ダダ」の雨だれをイメージしたようなクラリネットが印象的なフレーズが繋げられ、最後に「アワー・プレイヤー」の一節で終わる、という構成だ。

コレクターズ・ボックスのDisc2には、「英雄と悪漢」の"All Day"というセッションでこの曲の原型を確認する事が出来る。04年の『ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル』版では「イン・ブルー・ハワイ」というタイトルで新たな歌詞とメロディが加えられている。

作者:B.Wilson

リード:B.Wilson


66年にシングル曲として発表され、全米・全英でナンバーワン・ヒットとなった彼らの代表曲。67年の『スマイリー・スマイル』にも収録されたブライアンとマイクの作品で、本作ではそのバージョンをベースに、90年の"2in1"シリーズ『スマイリー・スマイル/ワイルド・ハニー』のボーナス・トラックで聴ける「グッド・ヴァイブレーション(セッション)」に登場する「Hum be dum, Hum be dum...」と歌われるパートが追加されたミックスになっている。

「英雄と悪漢」同様、複数のスタジオで長時間のセッションが行われた労作で、数多くのバージョンが存在する。コレクターズ・ボックスのDisc5はこの曲の様々なレコーディング・セッション風景を聴く事が出来る。 当時、この曲の制作に行き詰っていたブライアンは、アメリカの黒人ソウル歌手のウィルソン・ピケットに歌ってもらおうと考えた時もあったという。そんな時、ビーチ・ボーイズの独立レコード会社“ブラザー・レーベル”の社長に就任したばかりのディヴィッド・アンダールがこの曲に惚れ込み、ダニー・ハットンに歌わせたいと熱望した。アンダールの熱意がブライアンにビーチ・ボーイズの作品として完成させる事を決心させたそうだ。

04年の『ブライアン・ウィルソン・プレゼンツ・スマイル』版ではトニー・アッシャーが書いた歌詞で歌われてたが、マイクへの配慮からか本作ではマイクの歌詞に戻っている。

作者:B.Wilson - M.Love

リード:Carl, Mike



ボーナストラック

"スマイル・セッション"でレコーディングされた同じフレーズを繰り返す曲の断片のような作品。67年7月24日に発表されたシングル「英雄と悪漢」のB面として発表されている。 大きなバスドラとチェレスタの響きがちょっと幻想的な雰囲気を醸し出している。ボーカルに掛けられた深いエコーは徐々に無くなり、最後は生々しいノン・エコーで終了する。

コレクターズ・ボックスのDisc4ではこの曲の様々なコーラス・アレンジのレコーディング・セッション風景を確認することができる。

作者:B.Wilson

リード:Group


このアルバム3曲目に収録されている「英雄と悪漢」のステレオ・ミックス版。 本編の19曲全てがモノ・ミックスで収録されているのは、67年当時に発表されていたら、という想定からだろうか? いずれにしてもステレオ・ミックス版は小出しにリリースされていくのであろう、とにかくビーチ・ボーイズ・ファンは大変なのである。

作者:B.Wilson - V.D.Parks

リード:Brian, Mike


"スマイル・セッション"でレコーディングされた「英雄と悪漢」の様々な断片をつなげたもので、初のステレオ・ミックスとして収録。93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』に収録されていた「英雄と悪漢(セクションズ)」と殆ど同じであるが、所々それまで未発表だったフレーズで編集されている。

作者:B.Wilson - V.D.Parks

リード:Group


ピアノによるデモで、笑い声をモチーフにしたユニークなコーラスが展開されるこの曲の初期バージョン。

歌詞に登場する「Cornucopia(豊饒ほうじょうの角)」とはギリシャ神話に登場する、中からほしい物が何でも出てくるヤギの角の事で、豊かさの象徴とされる。又、「ぐるっと回り、大地に穴を開けよう」という完成版には無い歌詞が歌われている。 もしかしてタイトルの「Vega-Tables」とはヴェガ(琴座のアルファ星)の平坦な大地、という意味なのだろうか?そういえばブライアンは大の天体観測好きである。

付録のブックレットには地面に穴が空いたイラストに「“My Vega-Tables” The Elements」という文字の記載があり、初期の段階ではこの曲が組曲の"大地"だったのかも知れない。

作者:B.Wilson - V.D.Parks

リード:Brian


"スマイル・セッション"でレコーディングされたシンプルで歯切れのいい作品。リード・ボーカルとコーラスはブライアン。

奇妙なコーラスは「バーンヤード」の初期テイクのパートに酷似しており、たぶん「英雄と悪漢」のセクションから生まれたものなのだろう。後にアレンジを変えて「シーズ・ゴーイン・ボールド」というタイトルで『スマイリー・スマイル』に収録されている。

作者:B.Wilson

リード:Brian


"スマイル・セッション"でレコーディングされたバック・ボーカルのみをつなぎ合わせたサウンド・コラージュ。

「英雄と悪漢」、「ワンダフル」、「キャビン・エッセンス」、「ドゥ・ユー・ライク・ワームズ」、「ウィンド・チャイムズ」、「ヴェガ・テーブルズ」の断片がアカペラで歌われるが、このプロジェクトにおけるブライアンのコーラスへのこだわり、執着を強く感じざるを得ません。

作者:B.Wilson

リード:Group


ブライアンのピアノ弾き語りによる独唱で、93年の『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』に収録されたものとは別の初公開テイク。

"スマイル・セッション"が中止された後の67年秋頃のレコーディング。中間の美しい旋律のパートでは、転調も交えながらブライアンが情感たっぷりに歌い上げている。 プロジェクトの中止を自ら決めた彼は、この時どんな気持ちで歌っていたのだろうか?

作者:B.Wilson - V.D.Parks

リード:Brian


ピアノの中から出れなくなったブライアンを助け出すために友人がCとC#などを叩く、というようなスタジオにおけるお遊び。当時ブライアンはユーモアの重要性に入れ込んでいた。 コレクターズ・ボックスのDisc4には、カメラマンのジャスパー・デイリーが歌うコミカルが曲が収録されており、ユーモアだけのアルバムのリリースも真剣に検討されていたという。

蛇足であるが、『グリンプス』(ルイス・シャイナー著、東京創元社97年発刊)というSF小説では、主人公のレイが過去にタイム・トリップしてブライアンと『スマイル』を完成させてしまう、という奇想天外なストーリーが描かれている。 この小説には他にもドアーズのジム・モリスンやジミ・ヘンドリックスにも会って、有名な幻のアルバムをテープに念写して世に出す、という架空のお話であるが、まさか本当に『スマイル』が発表されるなんて…。
今読み返してみるとまた面白いかも。




smile裏ジャケ Brianのsmileジャケ
用意されていたスマイル裏ジャケット。
ブライアンの手書きリストを元に曲名が
印刷されている。
ギリシャ神話の黄道12宮が配置されているのは
何を意図しているのであろうか。
世界を驚かせた04年のブライアン版スマイル。




サーフズ・アップ

作曲:ブライアン・ウィルソン、作詞:ヴァン・ダイク・パークス


ダイヤのネックレスは質に出され
ドラムロールをバックに
あの娘は二枚目気取りの男と逃げた

下層貴族の姿が
オペラグラスに映し出され
ピットと振り子が引っ張って
円柱の遺跡がドミノ倒しを引き起こす

町を調べて、背景にブラシをかけろ
君は眠っているのかい?

壁のベルベットが襲いかかる
薄暗いシャンデリアが僕を目覚めさせ
夜明けに溶けた歌が聞こえる

豪華な曲線のミュージック・ホール
ミュートの利いたトランペットの調べに
すべての音楽はかき消され
円柱の遺跡がドミノ倒しを引き起こす

町を調べて、背景にブラシをかけろ
君は眠っているのかい?ブラザー・ジョン…

鳩が塔に巣籠すごも
水銀の月に照らされた通りに時刻を告げる
霧の向こうから馬車が横切る
ランプが灯る貯蔵室に
ツーステップ・ダンスの旋律を奏で
「蛍の光」に激しく嘲笑が重なる

グラスを掲げ、薔薇が火にくべられ
なみなみと注がれたワインで最後の乾杯
さよなら、さもなくば死を

息が詰まるような深い悲しみで心が麻痺し
泣くこともできないほど傷ついた男なんて

波が立った
高波に乗れ
若者と共に激しく清らかに

そして素晴らしい声を聞いた
子供の歌を
子供は、子供は、子供は人の父である
子供の歌を聴いた事があるかい?
その歌は愛の歌
子供たちは道を知っている
だから子供は、子供は、子供は人の父である

対訳:管理人





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