15・ビッグ・ワンズ
15 Big Ones
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76年6月、約3年半ぶりにリリースされたビーチ・ボーイズのオリジナル・アルバム。
彼らのデビュー15周年記念として発表された。「ロック・アンド・ロール・ミュージック」収録。
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プロデュース:ブライアン・ウィルソン
Brother-Reprise Revel 1976.6.28
曲目リスト
ヒストリー
ブライアン・ウィルソンの精神状態はますます悪化し、長い間、自宅のベッドで過ごしていた。 コカインとアルコールに依存した生活からは音楽が消え、彼の体重は240ポンド(約109Kg)を超えていた。チェーン・スモーカーのため、あの美しいフォルセット・ボイスも失ってしまう。 妻マリリンはブライアンを救うべく、数々の麻薬中毒患者を救ってきた精神分析医のユージン・ランディ博士に治療を依頼する事にする。 “本人が直接予約する事”がランディの治療方針・ルールであったため、ブライアンをその気にさせるための秘策が考えられた。 ブライアンの興味をランディに向けるための3週間にも渡るマリリンの必死の努力の末、遂にブライアン自らが治療を受ける事を決心する(マリリンは自ら患者を装い、ランディの治療がいかに楽しみかを演じたそうだ)。
「誰も僕を思い通りにする事は出来なかったが、ランディだけは違った。彼は僕の心を見抜いていた」と後にブライアンが語ったとおり、ランディはブライアンの心に直接語りかけ、ブライアンを現実に向き合わせるための様々な試みが行われた。 少しずつではあったが彼の精神状態は回復に向い、長く忌み嫌ってた音楽に向き合う事まで出来るようになる。
一方、ビーチ・ボーイズとの関係が修復しつつあったキャピトル・レコードが74年6月24日にリリースしたキャピトル時代のヒット曲を集めたベスト・アルバム『終わりなき夏』が全米チャートの1位となり、67週もチャートに留まる空前の大ヒットを記録する。 翌年には続編の『スピリット・オブ・アメリカ』が全米7位まで上昇し、突如としてビーチ・ボーイズのリバイバル人気が巻き起こった。 又、シカゴと共同で12都市を回る大規模なコンサートが大成功、『ローリング・ストーン』紙の“バンド・オブ・ジ・イヤー”に選出されるなど、60年代の全盛期並みのバンド人気が復活するのであった。
マイク・ラヴと他のメンバーはこの好機を生かすべく、“ブライアン・イズ・バック”キャンペーンを考案、ランディが監視するという条件で撮影されたNBCのテレビ番組「ザ・ビーチ・ボーイズ・イッツOK」にはブライアンの単独インタビューの他に、彼がサーフボードを持って海に飛び込む寸劇シーンまで含まれていた。 ニューアルバム『15・ビッグ・ワンズ』はキャンペーンの効果もあり、見事ゴールド・ディスクを獲得するのであった。 アルバムからは「ロック・アンド・ロール・ミュージック」がシングルカットされ「グッド・ヴァイブレーション」以来10年ぶりとなるトップ5ヒットを記録する。
コンサートも昔のように連日大盛況となり、ブライアンの復帰でグループが再び動き出すものと思われたのだが…。
アルバム解説
1976年6月28日には約3年半ぶりとなるスタジオアルバム。
アルバムジャケットには五輪をモチーフにしたメンバー5人の近影が使われたが、ひと際目を引くのは中央のブライアンの巨漢ぶりである。 ファンにとっては風貌以上にショックだったのがブライアンの潰れた声だろう。 あの美しいフォルセット・ボイスとは程遠い悲痛なまでに荒れた声である。 但し、本人はハスキー・ボイスを楽しんでいるようだ。
さて、アルバムの内容であるが、デビュー15周年に掛けて15曲を収録、うち8曲がカバー曲で構成され、バラエティに富んだオールディーズ集のような趣のある作品となった。 久しぶりにブライアンが積極的に参加しているのが顕著である。
約10年ぶりとなるブライアンのプロデュース、華やかで音楽を楽しむ明るさが感じられる。 “ブライアン・イズ・バック”キャンペーンの効果もあり、全米8位のヒットを記録した。ビートルズのカバーが有名なチャック・ベリー、57年のヒット曲で、ブライアンがビーチ・ボーイズ流にアレンジしたもの。能天気な歌い方のリード・ボーカルはマイク、コーラスにはメンバー5人の他にブライアンの妻マリリンも参加している。
76年5月24日、アルバムの先行シングルとしてリリースされ、全米5位の大ヒットを記録。 軽い印象を与えるものの、バック・ハーモニーやサックスが明るく楽しげな雰囲気を醸し出している。 ギターはビリー・ヒンシュ、エド・カーターが参加、ドラムはデニスが叩いている。 ブライアンはピアノ、オルガン、ムーグ・ベースの他、シンセのアープを演奏する活躍ぶりだ。
ブライアンとマイクが作った、かつてのビーチ・ボーイズを彷彿させるような陽気なサマー・ソング。 タイトルは、同年NBCで放送された“ザ・ビーチ・ボーイズ・イッツOK”からとられたもの。 リード・ボーカルはマイク。この曲もマリリンがコーラスで参加している。
76年8月9日に「ハド・トゥ・フォーン・ヤ」とのカップリングでシングル・カットされ、全米29位を記録。夏や太陽を謳歌するイメージが何とも懐かしい。
爽やかなサックスはロイ・ウッド&ウィザード。迫力あるドラムは、デニスとリッキー・ファターのツイン・ドラムである。 ここ数年、殆ど聴かれなかったオープン・ハーモニーが素晴らしい。
ブライアン、マイク、ブライアンの義姉、ダイアン・ローヴェルの3人がオランダ滞在中に作ったもので、君に電話したいという想いを歌った小品。 もともとは73年にマリリンとダイアンのコーラス・グループのアメリカン・スプリングのために書かれたものであった。 リード・ボーカルは、マイク、アル、カール、デニスが交代で歌っていて、エンディングではブライアンの声も聴ける。ブライアンが電話したい相手はダイアンだったのか、それともブライアンのおっかけデビー・キールだったのか?
クラリネットがクラシカルな雰囲気を醸し出すブライアンの豊かな才能が発揮された傑作であり、オールディーズ・ナンバーが多いこのアルバムの中では異彩を放っている。
オリジナルは黒人女性コーラス・グループのディキシー・カップス64年ナンバー・ワン・ヒット曲。作者はブライアンが敬愛するフィル・スペクターとジェフ・バリー、エリー・グリーンウィッチの3人。
鐘の音が印象的な2人の結婚を祝福する華やかなチャペル・ソング。 リード・ボーカルはハスキー・ボイスのブライアンで、しっかりと歌い上げている。 彼自身、かつてのフォルセット・ボイスよりも今の潰れた声を気に入っているかのようで、はしゃいだ感じのコーラスは楽しさが伝わってくる。 マイクの低音のバック・コーラスなど、かなりオリジナルに中実なアレンジである。
マイクが作った胸きゅんソング。リード・ボーカルもマイク。 印象的なフルートはチャールズ・ロイドの演奏。 ダリル・ドラゴンの妻、トニ・テニールが参加したコーラスが美しく、この作品を佳曲にしている。 ロン・アルトバックのピアノとハープシコード、エド・カーターのギター、マイクの妹モーリーンのハープなど、後のセレブレーションのメンバーが結集。
76年11月1日に「スージー・シンシナティ」とのカップリングでシングル・カットされたがチャート・インせず。
ジョー・セネカが作ったスローなリズム&ブルース。58年にリトル・ウィリー・ジョン、63年にはサニー&ザ・サングロウズがヒットさせたオールド・ロック。 しっとりとしたリード・ボーカルはカール。
途中でフレディ・キャノンの59年のヒット曲「タラハッシー・ラッシー」が挟み込まれているのはブライアンの好みか?
音楽に対するブライアンの愛情が感じられる、ユニークなゴスペル風の音楽賛歌。 ブライアンとマイクの共作で、ソウルフルで表現豊かなリード・ボーカルはブライアン。 バック・コーラスにはマリリンも参加している。
それにしても喜びが爆発したようなはっちゃけブライアンの歌声は圧巻。間違いなく自分の“声”を楽しんでいる。 アコーディオンやサックス、ヴァイオリンが曲に彩りを添えている。
冒頭にキャピトル時代の初期アルバムに入っていたお遊びソングを思い出すようなメンバーたちの言い争いの声が聴こえる。 超越瞑想(TM)の効果を絶賛した内容で、リード・ボーカルはアル・ジャーディン。 スティーブ・ダグラスによるサックスが印象的。
シングル「ロック・アンド・ロール・ミュージック」のB面にも収録。ブライアンの作品。
遊園地パリセイズ・パークでのデートを歌った、チャック・バリスの作品。 フレディ・キャノンが62年に全米3位のヒットを記録している。 少し力みのあるリード・ボーカルはカール・ウィルソン。ドラムはハル・ブレイン、ベースはライル・リッチと、久しぶりにレッキング・クルーが参加した、中々の演奏を聴かせる作品。
ブライアンが弾く間奏の印象的なオルガンのメロディは、『サマー・デイズ』収録の「アミューズメント・パークス・U.S.A」に流用された。
"サンフラワー・セッション"の時にブライアンのホーム・スタジオで録音されたアル・ジャーディンが作った69年末の作品。リード・ボーカルはアル。 70年に「アド・サム・ミュージック・トゥ・ユア・デイ」、74年には「チャイルド・オブ・ウィンター」、この年には「誰もが君に恋してる」のそれぞれB面に収められるが、アルバムに収録されるのはこれが初めて。
ブライアンがアレンジしたダイナミックなコーラスが圧巻のワイルドなロックン・ロール。バック・コーラスにはメンバー5人の他、ブルース・ジョンストンも参加している。 歌詞に出てくる町一番の悪女“スージー・シンシナティ”とはシンシナティに実在したタクシー・ドライバーのジョエリン・ランバートの事。 自動車のエンジン音が大胆に挿入されているが、アルは大の効果音好きであった。 同じ頃に書かれた作品、「ループ・デ・ループ」(後に『エンドレス・ハーモニー』に収録された未発表曲)にも様々な効果音が入れられている。 クラヴィネットはダリル・ドラゴン、後半に連打される激しいドラムはダリルの弟、デニス・ドラゴンのプレイ。躍動感のあるベースとハーモニカはブライアンである。
テンポが全然違うけど、ギター・リフやリズムがちょっとローリング・ストーンズのヒット・ナンバー「サティスファクション」に似ている。
エド・ウェルズの作品で、男女混合の黒人ドゥーワップ・グループ、シックス・ティーンズ56年のヒット曲。 リード・ボーカルはマイクとアル。コーラスやアレンジはオリジナルに忠実。 サックスはスティーブ・ダグラス、ドラムとパーカッションはデニスが担当している。
いかにもマイクが好きそうな選曲である。
56年にファッツ・ドミノが全米2位のヒットを記録した、ルイス、ストック、ローズの共作。 リード・ボーカルはマイク。
サックスやアコーディオンが味わい深い、スローでカントリー調のラヴ・ソング。 レッキング・クルーによる重厚な演奏、ブルース・ジョンストンがピアノで参加している。
62年頃にブライアンとボブ・ノーバーグが作った古い作品で、70年の"サンフラワー・セッション"でも録音されている。 のどかなカントリー調の曲で、ビーチ・ボーイズらしいコーラスを聴く事が出来る。
生き生きと希望に満ちたブライアンのリード・ボーカルが素晴らしい。 全てのコーラスと演奏は5人のオリジナル・メンバーによるもの。
13年のボックス・セット『夢のカリフォルニア』にドラムとテナー・サックスがフィーチャーされた63年の初期バージョンと70年に録音されたアル・ジャーディンがリード・ボーカルのデモ・バージョンが収録されている。
フレッド・パリスが作ったドゥワップの名曲。フレッドが在籍しているグループ、ファイヴ・サテンズの56年のヒットの他、ジョン・セバスチャン、ジャン&ディーンなど多くのアーティストが取り上げているスタンダード曲。 情感たっぷりのリード・ボーカルはデニス、ロマンチックなラヴ・バラードを熱く歌い上げている。デニスはこのアルバムが発売される前の月に恋人のカレン・ラムと結婚している。
昔とは違う、深みのあるフォルセット・ボイスはブライアン。この曲もメンバー5人による演奏、コーラスである。
ブライアンが弾く重厚なムーグ・シンセサイザーが印象的な、白人デュオのライチャス・ブラザーズ65年のヒット曲。 作者はジェリー・ゴフィン、キャロル・キング、フィル・スペクターというアメリカを代表するソング・ライター3人の共作。 スペクター・サウンドを意識したスケールの大きなアレンジで、かなりオリジナルに忠実だ。 リード・ボーカルはカールとブライアンが壮大で劇的な歌声を披露している。
ライチャス・ブラザーズ最大のヒット曲である「ふられた気持(You've Lost That Lovin' Feelin')」に通じるサウンド構成で、「一生に一度くらいは望むものを手に入れたい」と切実に歌われる迫力あるラヴ・ソングである。
ハド・トゥ・フォーン・ヤ
作曲・作詞:ブライアン・ウィルソン/マイク・ラヴ/ダイアン・ローヴェル
電話しなきゃ、電話しなきゃ
声を聞きたいんだ
はやく君に電話しなきゃ
一言、淋しかったと伝えたい
その度に心が熱くなるんだ
君と一緒にいたいだけさ
話中の時もあるけど
つながった時は
思わず微笑んでしまう
電話すれば
カリフォルニアはちっとも遠くない
淋しくないんだ
ダイヤルするだけでいいんだ
君の元気な姿を想像しながら
君の声を聴くと気持ちが落ち着くんだ
君の、君の、君の
電話に出ておくれ
頼むから(家にいておくれ)
ねぇ、電話に出ておくれ
対訳:管理人
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