ザ・ビーチ・ボーイズ'85
The Beach Boys '85


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85年6月に発表されたビーチ・ボーイズ、5年ぶりのオリジナル・アルバム。
「ゲッチャ・バック」収録。スティーヴ・レヴィンのプロデュース。



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プロデュース:スティーヴ・レヴィン

Calibou Revel 1985.6.10


ヒストリー

デニスが亡くなる以前からブライアンもまた破滅的な生活を送っていた。1日中ベッドで過ごし、様々な薬物とアルコールに依存、体重は340ポンド(約154キロ)を超えていた。 彼の身の回りのことは全て住み込みで付き添う黒人女性看護士キャロリン・ウィリアムズによって行われたが、彼女の寛容さが益々ブライアンの自堕落的な暮らしを助長する結果を招いてしまっていた。 ビーチ・ボーイズの関係者は、ブライアンを第2のエルビスにしたくないという思いからこの状況をなんとか打開するために、かつて彼を一時的に立ち直らせた実績を持つ臨床心理医、ユージン・ランディに助けを求める事にする。

ランディによって6ヶ月間かけて練られたシナリオは、ビーチ・ボーイズからブライアンを解雇し資金源を断つ事、治療に応じる事が唯一の道と本人に悟らせる事、であった。 82年11月5日に実行されたこのブライアン救出作戦は功を奏し、キャロリンからブライアンを切り離す事に成功、一行はハワイのコナ市に移動して厳しい更生プログラムが始められた。 荒れ果てた生活により命の危険すらあったブライアンであったが、治療はみるみる成果を上げ、ランディから食事のマナーや体の洗い方、人との会話に至る、日常的な事柄を学び、急速に回復に向かったという。 ハワイでの治療3ヶ月目に地元のコンサートに出演し、その場でメンバーに曲のアレンジをアドバイス、素晴らしい演奏を演出するという出来事もあった。 ロスに戻っても治療は続けられ、頭の中に聞こえる声と対峙する方法を学び、再び音楽に向き合う事が出来るようになるのだった。 84年春には過酷なサバイバル・キャンプに参加したり運転免許を取得するなどタフさも身につける。 夏の祝賀コンサートでは娘のカーニー、ウェンディと再会、2人が音楽活動を始めようとしている事を知り、全面的な協力を約束した。

グループは85年7月13日に行われた20世紀最大のチャリティ・コンサート“ライブ・エイド”にも出演、ブライアンもステージに立ち「カリフォルニア・ガールズ」や「素敵じゃないか」などを披露、健在ぶりをアピールした。

今度こそ、ビーチ・ボーイズ再出発となるはずであった。


アルバム解説

デニスの死を乗り越え、前作から実に5年ぶりとなる1985年6月10日に発表された待望の新作である。

本作『ザ・ビーチ・ボーイズ'85』(発売当初は単に『ザ・ビーチ・ボーイズ』というタイトルだった)はブライアンの復調がはっきりと確認できる久しぶりのアルバムとなった。

制作者にカルチャー・クラブのプロデューサーであったスティーヴ・レヴィンを迎え、ロンドンとロサンジェルスでレコーディングされた。 ブライアンは5曲を提供(1曲はボーナス・トラック)、レコーディングにも積極的に参加しているが、彼1人に頼らず、各々のメンバーが持ち味を発揮したものとなった。

全米チャート52位。時代を反映してか、シンセサイザーを多用した打ち込みの音が食傷気味ではあるが、これはスティーヴ・レヴィンのプロデュースによる結果である。 ブライアンはレヴィンの操るデジタル・レコーディング・テクノロジーに驚き、尊敬もするが、同時に技術が進歩しても人間の感性こそ音楽に最も大切なことを再認識するのだった。

小生の好き度

★ ★ ★ ★ ★

往年のビーチ・ボーイズを彷彿させるようなオープン・ハーモニー、「ドント・ウォリー・ベイビー」を思わせるリズムとコード進行、あの懐かしいサウンドが帰ってきたと喜んだファンも多かったのではないだろうか。 「戻ろうよ、ベイビー」という彼女への想いを歌った内容は、彼ら自身の音楽人生とも捉える事ができ、69年の「恋のリバイバル」と似たコンセプトを感じる。

作者はマイク・ラヴと60年代初頭からブルース・ジョンストンとコンビを組んでいたテリー・メルチャー。リード・ボーカルはマイク、途中ブライアンの歌声も聴こえる。 アルバム発売に先立つ85年5月8日に「メイル・エゴ」とのカップリングでシングル・リリースされ全米26位のスマッシュ・ヒットを記録、グループの健在ぶりを印象付けた。

マイクとテリーのコンビはこの後も続き、「ロックン・ロール・レスキュー」(86年6月)や「夢のカリフォルニア」のカバー・バージョン(86年9月)など立て続けにシングル曲を発表する事になる。

作者:M.Love - T.Melcher

リード:Mike, Brian


オープニングからきらびやかなシンセサイザーが全開のスロー・バラード。カールとマーナ・スミス、ロバート・ホワイト・ジョンソンの共作。 マーナはカールのソロ・アルバム制作にも参加していた女性ミュージシャンで、かつてはエルビス・プレスリーのバッキング・グループとしても活躍していた人。

フォルセットを交えた高音のカールのリード・ボーカルは素晴らしいものの、サウンドがあまりにも安っぽく作品の魅力を半減させている。 85年7月17日にシングル・カットされ、全米82位を記録。何故かB面は76年のヒット曲「イッツ・OK」であった。

作者:C.Wilson - Myrna Smith Schilling - Robert White Johnson

リード:Carl


シンセによるチープなサウンドながら、ブライアンとアルの共作による正真正銘ビーチ・ボーイズ・ミュージックである。

リード・ボーカルはアル、中間部はブライアンによるもの。彼ららしいコーラスを聴くことが出来る。恋に臆病になった男の告白を歌った内容は、当時メリー・アンという女性と再婚したばかりのアルの心情を反映しているのかも知れない。

作者:B.Wilson - A.Jardine

リード:Alan, Brian


ゲイリー・ムーアのギターが印象的なミディアム・テンポのラヴ・ソング。作者はカール、マーナ・スミス、スティーヴ・レヴィン、そしてカルチャー・クラブのキーボードを担当していたイギリスのミュージシャン、ジュリアン・スチュワートリンジーの4人。

やや情感に欠けるメロディで、単に音を重ねているという印象。このような曲調はカールに合っていないと思う、小生の個人的な感想である。

作者:C.Wilson - M.Schilling - S.Levine - J.Lindsay

リード:Carl


失った彼女と再び愛し合える喜びを歌った、ブルース・ジョンストンが作った感傷的なラヴ・ソング。 リード・ボーカルはブルースとカール、特にカールの艶やかな歌声は素晴らしく、この曲の繊細な魅力を引き立たせている。ムーディーなギターはゲイリー・ムーア。 85年10月2日に「ラスト・シーン」と共にシングル・カットされたがチャート・インせず。但し、全米アダルトコンテンポラリーチャートでは26位を記録した。

2012年、彼らのデビュー50周年のアルバム制作時に、発表されなかったもののブルースはこの曲を再アレンジしている。

作者:B.Johnston

リード:Bruce, Carl


サマー・ミュージックの王者"ザ・ビーチ・ボーイズ"を声高らかに宣言するようなマイク・ラヴの嗜好が思いっきり出た作品。 アル・ジャーディンとブライアンの共作曲で、リード・ボーカルはアルとマイクが交互に歌っている。

85年版サーフィン・U.S.A.といった風情であり、オルガンの響きなどは明らかに「カリフォルニア・ガールズ」を意識した、いかにも“狙った感”に充ちている。 とはいえ、生き生きとしたアルのボーカルがクリアなサウンドにマッチしており、出来は悪くないのではないか。 ドラムは元ビートルズのリンゴ・スターによるもの。日本では「ゲッチャ・バック」に続く第2弾シングルとしてリリースされた。

作者:A.Jardine - B.Wilson

リード:Mike, Alan


友達を失った悲しみを嘆くネガティヴな曲で、作者はイギリスのポップ・バンド、カルチャー・クラブのボーイ・ジョージとジョン・モス。

カールのリード・ボーカルはどこか戸惑いが感じられる。打ち込みのシンセサイザーとリズム・セクションはどうにもビーチ・ボーイズには合わないようだ。

作者:G.O'Dowd - R.Hay

リード:Carl


ブライアンの作った珠玉のラヴ・ソング。メロディ・ライン、バック・コーラス、テナー・サックスが引っ張るサウンド、一級品のポップ・センスが光る1曲だ。

本アルバムの大半の曲はロンドンでセッションが行われたが、別々に録音したボーカル・パートを機械的に加工して、聴きやすいコーラスを作る、というデジタル・レコーディングにしっくりしないブライアンであった。 プロデューサーのスティーヴ・レヴィンの手法には敬意を表していたものの、この曲のボーカル録音はブライアンの主張によりメンバー全員がマイクを囲んでレコーディングに臨んだそうだ。その光景を見ていたレヴィンは初めて見るレコーディング・スタイルに驚いたという。 リード・ボーカルはフォルセット・ボイスも交えたブライアン。マリリンが去った寂しさをシンプルな歌詞でストレートに歌っている。

作者:B.Wilson - E.E.Landy

リード:Brian


カールとロバート・ホワイト・ジョンソンの書いたスロー・バラード。

カールのリード・ボーカルは哀愁が漂い、分厚く重ねられたコーラスはドラマチックに仕上げられているのだが、何か無機質で情感に欠ける印象がある。 作品としてまだ未完成なのかも知れない。あくまで個人的な感想であるが。

作者:C.Wilson - R.W.Johnson

リード:Carl


スティービー・ワンダーがビーチ・ボーイズのために書き下ろした、彼らしいラヴ・ソング。ハーモニカやキーボードもスティービーによる演奏だ。 「愛するデューク」や「マスター・ブラスター」など数多くの作品をヒットさせていたスティービーであるが、当時も「心の愛」や「パート・タイム・ラヴァー」などがTDKのCMソングに使われ、日本でも人気・知名度が最も高い時期であった。

リード・ボーカルはカールとアル、曲の後半のあたりは特にスティービーを意識したような歌い方が面白い。

作者:S.Wonder

リード:Carl, Alan


ブライアンが書いたブルース調のスロー・ロック・バラード。センスのいい暖かなハーモニカの調べなど、彼の豊かな才能が感じられる名作である。 リード・ボーカルはブライアンとマイクの2人によるハーモニー。 84年に発売された彼らのドキュメンタリー映画『アン・アメリカン・バンド』にほんの一瞬であるが、ステージのブライアンがピアノでこの曲を弾き終わり、デニスとカールの3人で抱擁し、観客に「弟のデニスとカールです!」と紹介する、感動的な映像を見ることができる。

非常にシンプルな歌詞であるが、別れたマリリンへの想いを歌ったものであろう。因みに当時のブライアンの作品は、精神分析医のユージン・ランディの名前が共作者としてクレジットされている。

作者:B.Wilson - E.E.Landy

リード:Brian, Mike



ボーナストラック

ピアノとドラムがグイグイ引っ張るブギ・ウギ調のシンプルなロックンロールで、後のブライアンのソロ・アルバムに通じる雰囲気を持っている作品。 リード・ボーカルはマイク、高いパートとサビの部分はブライアン。 ブライアンとユージン・ランディの共作のプレイボーイの男がナンパするという歌。歌詞が気に入らないという理由で詩の1部をマイクが書き換えている。

シングル「ゲッチャ・バック」のB面収録曲であり、元々アナログ盤のLPには入っていなかったが、CD化に伴いボーナス・トラックとして収録された。

作者:B.Wilson - M.Love - E.E.Landy

リード:Mike, Brian




アイム・ソー・ロンリー

作曲・作詞:ブライアン・ウィルソン


とっても寂しいんだ
本当に、本当に、寂しいんだ
君が慰めに来てくれたらいいのに
心が痛むんだ
君を失ってからずっと

君が出て行ってから
ずっと帰ってきてくれると信じているんだ
寂しいんだ、今夜も

君が去ってから
毎日、毎晩、いつも考える
いつまでこの状態が続くというんだ

君が出て行ってから
ずっと帰ってきてくれると信じているんだ
寂しいんだ、今夜も

対訳:管理人





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