ビーチ・ボーイズ・トゥデイ!
The Beach Boys Today !


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65年3月に発表された通算9枚目となるビーチ・ボーイズの傑作アルバム。
「ヘルプ・ミー・ロンダ」、「ダンス・ダンス・ダンス」、「パンチで行こう」、「プリーズ・レット・ミー・ワンダー」収録。



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プロデュース:ブライアン・ウィルソン

Capitol Revel 1965.3.8


ヒストリー

レコード会社からの執拗な新譜要求、ビートルズやフィル・スペクターに抱く憧れや対抗意識、父マリー・ウィルソンとの確執、ブライアンはそれらを一人で抱え込んでいた。 始まったばかりのマリリンとの新婚生活もトラブル続きで彼には苦痛なものとなっていた。 追い討ちをかけるように、マリーはビーチ・ボーイズの全作品の版権を管理する会社、“シー・オブ・チューンズ”の作詞・作曲以外の取得権利を息子から奪い取ってしまう。

64年12月23日、シングル「ダンス・ダンス・ダンス」をプロモートするための西部をまわるツアーに向う飛行機の中、ブライアンは突如泣き叫び精神錯乱状態となった。 様々なプレッシャーから遂に限界が訪れたのだ。 以前から公演旅行が曲作りの障害と感じていたブライアンは、翌年の2月、ステージに立たない事をメンバーに宣言する(マリーは息子を「負け犬」と罵り、最後まで許さなかったらしいが)。

煩わしいコンサートという呪縛から解放されたブライアンは更に自らの創造力の可能性を追求し、刺激的な創作の世界に身を投じる事になるのだ。 しかし彼の成長・変化は、皮肉にもマイク・ラヴをはじめとした他のメンバーとの関係に微妙な緊張をもたらす事を同時に意味していた。

ブライアン渾身の最新作『ビーチ・ボーイズ・トゥデイ!』であるが、マイクはB面の内省的なバラード群を気に入っていなかった。 ブライアン自身、このグループが本質的に抱えている"矛盾"を初めて思い知らされた瞬間であった。


アルバム解説

通算9枚目となる『ビーチ・ボーイズ・トゥデイ!』は、ステージから退いたブライアンが創作活動に専念し始めた1965年3月8日に発表された。

ジャケット写真はグループ内部の様々な変化を微塵も感じさせない明るいもの。 メンバー5人がプールの飛び込み台に並んで座っているショットで、グリーンを基調とした爽やかなイメージが印象的である。

オーバー・ダビングを多用した深いエコーの音像が特徴的なこのアルバムは、“レッキング・クルー”と呼ばれているコロンビア・スタジオのセッション・ミュージシャンを積極的に起用しており、フィル・スペクターの影響が随所に感じられるものである。 これまでの作品と比べるとバッキングが厚く、より複雑かつ巧妙なサウンドになっていることがはっきりと判る。

A面(1曲目から6曲目まで)にアップ・テンポなナンバー、B面(7曲目以降)に内省的なバラードを配した構成は意図的なものである。 注目はB面のバラード群。ブライアンは64年の終わり頃に知り合ったローレン・シュワルツに勧められてマリファナを常用し始めるが、B面の何曲かはマリファナの影響下で書かれたものである。アルバムの完成度は非常に高く、これまでの作品中、最も充実した内容を誇る。ブライアンは音楽的に成長期にあった。

因みに本作から『ワイルド・ハニー』(68年)までの6枚のオリジナル・アルバムはすべてモノラル・ミックスで発表されるが、これもスペクターを意識しての事だった(スペクターも自分のミキシングが聞き手に伝わらない事を嫌い、モノ・ミックスにこだわっていた)。

小生の好き度

★ ★ ★ ★ ★

アルバムの冒頭を飾るのは、ボビー・フリーマンの58年のナンバー・ワン・ヒットとなったロックン・ロール曲。パワフルなリード・ボーカルはデニス・ウィルソン。

ザ・マン・ウィズ・オール・ザ・トイズ」に続く13枚目のシングル曲で、アルバム発売1ヶ月前の65年2月8日にリリースされ全米12位をマークした。

これまでのサウンドに比べホーン・セクションやパーカッションなどバッキングが分厚く、バック・コーラスも迫力がある。明らかにフィル・スペクターに影響を受けているサウンドである。

初のステレオ・ミックスは、2012年にリリースされた『トゥデイ(モノ&ステレオ)』に収録。 また、2022年デビュー60周年記念版『ザ・ベリー・ベスト・オブ・ザ・ビーチ・ボーイズ:サウンド・オブ・サマー』に低音が強めの新ステレオ・ミックスが登場。

作者:Bobby Freeman

リード:Dennis


ギター・リフが印象的なマリリンとのロマンスを歌った胸きゅんソングで、アカペラで始まるオープニングが斬新なブライアンの作品。 リード・ボーカルはマイクとブライアンが交互に担当。

アップ・テンポなリズムの中でバリトン・サックスとベース・ギターがムーディーな雰囲気を醸し出している。 マイナー・コードが入り混じった哀愁あるサビが良く、小生はこの曲を聴くと渚に夕日が沈む情景が浮かんでくる。

2001年のレア・トラック集『ホーソーン,カリフォルニア』にバッキング・トラックが収録されていて、その重厚なサウンドを楽しむことができる。 ステレオ・ミックスは、2009年のラヴ・ソング集『サマー・ラヴ・ソングス』に初めて登場する。

作者:B.Wilson (M.Love)

リード:Mike


12弦ギターのリフがカッコいい、ちょっと感傷的なサビを持つポップ・チューン。

元々はブライアンがフィル・スペクターとダーレン・ラヴのために作った曲で、64年の5月にハリウッドのホテルの一室でスペクターとブライアンがピアノでこの曲を手直ししたというエピソードがある。 結局スペクターのプロデュース版はボツになったが、最終的にダーレンのグループであるブロッサムズが「シングス・アー・チェンジング」として66年にまったく異なるアレンジで発表している。

ブライアンの義理の姉であるダイアン・ローヴェルが妹を気遣った内容の歌詞。 ブライアンはローヴェル3姉妹のダイアン、マリリン、バーバラ全員に恋愛感情を抱いていて、マリリンと結婚した後もその気持ちを持ち続けたという。 歌詞に登場する“妹”はマリリンなのか、それともバーバラなのか?微妙である。

ステレオ・ミックスは2012年の『トゥデイ(モノ&ステレオ)』に初収録された。

作者:B.Wilson (M.Love)

リード:Mike, Brian


アイ・ゲット・アラウンド」に続くシングルとして64年8月17日にリリースされ、全米9位まで上昇したヒット曲。 ブライアンの作品でリード・ボーカルはマイクとブライアン。

ハープシコードをフィーチャーしたサウンドが斬新で、デニスが叩くドラムのリズム・パターンやキャロル・ルイスのハーモニカの使用など、随所にサウンドの工夫が見られる。 歌詞は大人になったらどんな人生を歩んでいるのだろう、といった後の『ペット・サウンズ』に通じるような内省的な世界観が描かれていて興味深く、14歳、15歳・・・とカウント・アップされるコーラスも面白い。でもなぜ邦題が「パンチで行こう」なのか? 現在では「ホエン・アイ・グロー・アップ(トゥ・ビー・ア・マン)」のタイトル表記が一般的かも。

2008年の『U.S.シングル・コレクション』に初のステレオ・ミックスが登場、モノラル版とは大分印象が違うボーカルのエコーが強めにかかったクリアなサウンドを聴く事が出来る。

作者:B.Wilson (M.Love)

リード:Mike, Brian


この曲も特徴的なギター・リフを持つシャッフル・ビートのポップ・ナンバー。 ブライアンの作品でリード・ボーカルはアル・ジャーディン。 バリトン・サックスやハーモニカ、ウクレレが効果的に使われている。

曲の後半、ボリュームを上下されるなど実験的要素が強いアレンジであるが、このアルバムのリリース後に編曲し直して再レコーディング、シングル・カットされている。 シングル・バージョンは次回作『サマー・デイズ』に収録。 マネージャーを解雇された父、マリー・ウィルソンとブライアンがこの曲のレコーディング中にスタジオで激しく口論する音声がビデオ『アン・アメリカン・バンド』で確認することが出来る。

2012年の『トゥデイ(モノ&ステレオ)』にボーカルが左右に振り分けられたステレオ・ミックスが初登場する。

作者:B.Wilson (M.Love)

リード:Alan


ブライアンとカールの共作曲。リード・ボーカルはマイク、サビのフレーズはブライアン。

「パンチで行こう」に続き64年10月26日に発表された11枚目のシングル。全米8位まで上昇。 この曲のプロモートのコンサートに向かう飛行機の中でブライアンは錯乱状態となった。

鈴の音とカールの12弦ギターのフレーズが印象的な力強い作品で、まるでジェット・コースターのような勢いのあるロックン・ロールに仕上がっている。 この曲もタンバリンやカスタネット、トライアングルなど多彩なパーカッションが歯切れのいいサウンドを作っている。途中に転調するところなどブライアンのセンスが光る傑作曲だ。

2001年の『ホーソーン,カリフォルニア』にステレオ・ミックスが初登場。 その後、何度かステレオ・ミックスが登場し、それぞれ趣の異なるミキシングが施されている。 2004年のベスト・アルバム『サウンド・オブ・サマー』収録版のミックスは非常にパワフルな仕上がりである。 2022年のデビュー60周年記念版『ザ・ベリー・ベスト・オブ・ザ・ビーチ・ボーイズ:サウンド・オブ・サマー』にはボーカル・コーラスが左右に広がった聴きやすいのステレオ・ミックスが収録。

作者:B.Wilson - C.Wilson (M.Love)

リード:Mike


ブライアンが作った感傷的なバラードの傑作。 彼が初めてマリファナでハイな状態の時に書いた作品である。 リード・ボーカルはブライアン、エンディングの「I Love You」のつぶやきはカールによるもの。

恋人を歌ったラヴ・ソングであるが、タイトルの「プリーズ・レット・ミー・ワンダー(驚きの世界へ連れて行ってほしい)」は、クリエイティヴな創作活動を追及したい、というブライアンの願望が込められているもの。 間奏のオルガンとタンバリンの響きが実に幻想的。「踊ろよ、ベイビー」とのカップリングでシングル・カットされ、B面ながらチャートでは52位まで上昇した。

オリジナルのモノ・ミックスは音が篭っている感じだが、2007年のベスト・アルバム『ザ・ウォームス・オブ・ザ・サン』に収録された初のステレオ・ミックスは衝撃を受ける程に素晴らしく、この曲が持っている芳醇かつ濃厚なサウンド、ガラス細工のような繊細さが十分に楽しめるものになっている。 その後、オリジナル・モノ・ミックスに近いステレオ・ミックスが登場するが、最初のステレオ・ミックスの方が断然出来がいい。

作者:B.Wilson - M.Love

リード:Brian


黒人コーラス・グループのスチューデンツの58年の作品。 ビーチ・ボーイズのカバーは、64年に発表されたロニー・スペクター(ロネッツのボーカリスト)のソロで発表されたフィル・スペクターのプロデュース版に近いアレンジだ。 情感たっぷりのリード・ボーカルはブライアン。

ギター、ベース、ドラム、タンバリンなどに深いエコーがかけられ、幻想的な雰囲気に仕上げられている。メンバーのコーラスも素晴らしい。

初のステレオ・ミックスは2009年の編集アルバム『サマー・ラヴ・ソングス』で発表された。

作者:W.H.Tyrus Jr.

リード:Brian


イングリッシュ・ホルンやフレンチ・ホルンが効果的に導入された非常に美しいラヴ・ソング。 65年4月5日にリリースされた「ヘルプ・ミー・ロンダ」のB面にも収録。 ブラス・セクションやドラム・パターンがモダンでゴージャスな雰囲気を醸し出しつつ、仕上がりは繊細で透明感が際立っている。 コーラスも完璧で、特にマイクのバス・ボイスが素晴らしい。

ブライアンは64年10月のヨーロッパ遠征先、アムステルダムでこの曲想を思いつき一夜のうちに書き上げたという。 レコーディングは12月16日と1月15日にウェスタン・スタジオで行われた。

初ステレオ・ミックスは98年の『エンドレス・ハーモニー』に収録。 「プリーズ・レット・ミー・ワンダー」同様に驚愕のサウンドが堪能できる。 又、2001年の『ホーソーン,カリフォルニア』ではバッキングをカットしたアカペラ・ミックスを楽しめる。

作者:B.Wilson (M.Love)

リード:Brian, Mike


このアルバム収録曲中、最も古い64年6月にレコーディングされ、8月17日に「パンチで行こう」のB面として発表された。 サウンドはシンプルな構成ながら、深いエコーやユニークなギターのフレーズなど、ブライアンの創造力の深化を示している名曲。

まだ結婚前のマリリンへの想いが綴られた内容のラブ・ソング。 それにしてもブライアンのフォルセット・ボイスは切なく、痛々しいほど悲しみに満ち溢れている。

2008年の『U.S.シングル・コレクション』で初めてステレオ・ミックスが登場するが、ギターやコーラスの一部が欠落している。 2014年のセッション音源集『キープ・アン・アイ・オン・サマー:ビーチ・ボーイズ・セッションズ1964』にはブライアンのリード・ボーカルをカットしたカラオケと、美しいアカペラ・ミックスを聴く事が出来る。

作者:B.Wilson (M.Love)

リード:Brian


ブライアンが作った風変わりな抒情詩。 将来への期待と不安が入り混じった彼自身の心情が歌われているような内容である。 ソウルフルなリード・ボーカルはデニス・ウィルソン。

ホーンやストリングスのオーケストレイションを使った大胆なアレンジで、途中の奇妙なパーカッションやベース・ラインが不思議なサウンドを作り出している。 エンディングでは不協和音と共に崩れ落ちるストリングスが秀逸であり、ブライアンの天才(狂気)の一旦を垣間見る事が出来る。

2012年の『トゥデイ(モノ&ステレオ)』に収録されたステレオ・ミックスは、エンディングがフェイド・アウトせずに最後まではっきり聴き取れる。

作者:B.Wilson (M.Love)

リード:Dennis


アルバムを締めくくるのは、この頃定番となっていたお遊びトラック。

ビーチ・ボーイズのメンバー、ブライアンの妻マリリン、雑誌編集者のアール・リーフなどがファスト・フードを食べながら64年10月の初のヨーロッパ・ツアーの思い出などを雑談しているもの。



ボーナストラック

64年9月にレコーディングされた初期バージョン。 公式テイクと比べるとマイクの歌い方やコーラスなどが異なり、全体にシンプルでスマートな印象である。 ビーチ・ボーイズのメンバーだけの演奏だ。

2014年リリースのセッション集『キープ・アン・アイ・オン・サマー:ビーチ・ボーイズ・セッションズ1964』にもこのテイクの新たなステレオ・ミックスが収録されている。

作者:B.Wilson - C.Wilson (M.Love)

リード:Mike, Brian


こちらも64年9月にレコーディングされた初期バージョン。 美しいフルートのメロディが挿入されており、ドラムのタムの連打が印象的。ギターに深いディレイがかかっている。

『キープ・アン・アイ・オン・サマー:ビーチ・ボーイズ・セッションズ1964』にもこのテイクのセッション風景と完成版を聴く事が出来る。

作者:W.H.Tyrus Jr.

リード:Brian




ドント・ハート・マイ・リトル・シスター

作曲・作詞:ブライアン・ウィルソン


彼女が自分の部屋に走りこむ
もう今日は出て来ないかも
あなたが何か言ったんでしょう
あの娘が傷つくの知っていたはずなのに

なぜ彼女にキスしないの
(なぜ彼女にキスしないの)
そしてあの娘にキスをしながら
(間違いだったと教えてあげて)
なぜ彼女をいたわってあげないの
(なぜ彼女をいたわってあげないの)
そしたら彼女は幸せなのに

妹を傷つけないで ※
妹を傷つけないで
妹を傷つけないで

あの娘にとってあなたはとても素敵な男の子
でも今でもそう思っているかしら
あの娘が泣いている訳を知ってるでしょう
遊び半分じゃない事を願ってる

なぜ彼女を愛さないの
(なぜ彼女を愛さないの)
まるであの娘の兄のよう
(まるであの娘の兄のよう)
なぜ彼女に教えてあげないの
(なぜ彼女に教えてあげないの)
ごめんねと言ってあげて

(※ 繰り返し)

妹を傷つけないで
(なぜ彼女を愛さないの)
妹を傷つけないで
(まるであの娘の兄のよう)

(※ 繰り返し)

対訳:管理人





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