サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band

(アルバム)


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一音楽世界から脱却したビートルズの金字塔。現実と幻想、主知と主情を見極めたポップ史上最大のトータル・アート!!

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プロデュース:ジョージ・マーティン

Parlophone Revel 1967.6.1


ヒストリー

1966年8月29日の最後のコンサートの後、ジョンは映画『僕の戦争(How I Won the War)』に主演している。 ポールは映画『ふたりだけの窓(The Family Way)』のために楽曲を提供、ジョージはインドでラビ・シャンカルに会いインド音楽に心酔する。 これらメンバーのソロ活動はビートルズ解散の噂を呼ぶ事になる。

同年11月、解散説をよそにビートルズの4人はスタジオに集まり、レコーディングを開始、時間的制約が無くなったセッションは深夜にまで及ぶ事も。 67年2月17日に半年ぶりのシングル「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー/ペニー・レイン」を、その4ヶ月後の6月1日にはアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を発表する。 当時のサイケデリック・シーンの影響を直接受けたこれらの作品群は、アメリカの西海岸で発生したフラワー・ムーブメントと呼応し、やがて伝説の「ウッドストック・フェスティバル」へと発展していくのであった。 67年はロック界にとってターニング・ポイントとなった年である。

激化するベトナム戦争に反対する若者たちは髪を伸ばし、愛と平和を訴えるヒッピー・カルチャーが台頭。 音楽も文化も変わりつつあった。


アルバム解説

67年6月1日に発表された8枚目の英国オリジナルアルバム。前作がベストアルバム『オールディーズ』であったため、オリジナルとしては実に10ヶ月ぶりとなる新作だ。 前オリジナル作品『リボルバー』にも増して更にスタジオワークを駆使した意欲作である。

「サージェント・ペパーズ」という架空のバンドに扮する事で、もっと自由な表現が出来るんじゃない?というアイデアから、全体が“架空のショウ”に見立たアルバムになった。 ジャケットデザインはポールの発案で、髭を生やしたミリタリー・ルックのメンバーを中心に総勢60名を超える各界の著名人が並ぶもの。 傍らには若き日のビートルズの蝋人形が参列し、足元にはマリファナの花で描かれた“BEATLES”の花文字が飾られている。 又、見開きの豪華なジャケットも当時話題となり、レコード業界で豪華ジャケットアルバムが流行するきっかけにもなった。

全ての曲がコンセプト・アルバムとして統一されているわけではないが、ジャケット写真を含めテーマが設定されているという点では、世界初の試みと言える。 ビーチ・ボーイズの傑作アルバム『ペット・サウンズ』に対抗するために作った作品で、ビートルズのアルバムの中でも特に評価が高く、彼らの最高傑作と位置づけられている。

67年のグラミー賞において最優秀アルバム賞ほか4部門を獲得。全世界で3,200万枚以上を売上げた。 ローリング・ストーン誌が選ぶオールタイムベストアルバム500では堂々の1位に選出されている。

2017年にはアルバム発売50周年という事で新たにリミックスされた「記念エディション」盤が発売、6枚組の「スーパー・デラックス・エディション」にはレコーディング風景や驚きのモノミックスなどが収録されている。 この6枚組には当時のプロモ・フィルムの4K復元版や92年のドキュメント『ザ・メイキング・オブ・サージェント・ペパーズ』の映像と、リミックス版のハイレゾ音源が収録されたDVD&Blue-rayも入っているのでマニアな人は必聴です!!

小生の好き度

★ ★ ★ ★ ★

ポールがアルバム全体で架空のバンドのコンサートを行う、というアイディアを思いつき書き上げたロック色溢れる作品。

「ペパー軍曹のロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」という別人格に扮し、ショウが始まる様子を再現した構成になっている。 スタジオ録音であるがライブ感を出すために観衆の歓声や笑い声などの効果音が挿入されている。

リードボーカルはポール。コーラスはジョンとジョージ。 ジョージ・マーティンによる間奏のブラスのアレンジは非常に大胆で雄大なものになっている。

作者:J.Lennon - P.McCartney

リード:Paul


前曲のエンディングで「さあ、唯一無二のビリー・シアーズです!」と紹介されたリンゴが歌い始めるシンプルだが軽快な曲。

ポールの作品。歌詞の一部をジョンが手伝っているが、当初は「もし僕が調子っぱずれで歌ったら、君はトマトを投げつけるかい?」というものだったが、リンゴは「ステージで本当にトマトを投げつけられたら嫌だ!」といって歌詞を変えてもらったそうだ。 歯切れのいいドラムとベースのコンビネーションが印象的で、リンゴのリードボーカルに呼応するポールとジョンのコーラスが心地いい。 エンディングの高音のボーカルは「ポールにうまく乗せられて何とか声が出せた」とリンゴが語っている。 ジョー・コッカーをはじめとして多くのカバー・ヒットがある。

作者:J.Lennon - P.McCartney

リード:Ringo


3歳の息子ジュリアンが描いた絵をモチーフにしたサイケ色溢れるジョンの作品。3拍子で始まりサビで4拍子に変わる変則的なリズム構成である。 リードボーカルはジョン、サビのコーラスはポール。 ボーカルにかけられたフェージング(音響効果)は11種類も試され、ステレオ・ミックスよりモノ・ミックスの方が非常に強くかけられている。

冒頭の印象的なリフとサビのロウリー・オルガンはポールによるもの。 ジョージのタンプーラが幻想的な雰囲気を醸し出している。 この曲でもポールのベース・ラインが秀逸だが、この頃のレコーディングからベースを最後に録音する事が多くなったそうだ。「そのおかげで色んなアイディアを入れる事が出来た」とポール自身、ドキュメンタリー・フィルムの中で言っている。 タイトルの頭文字を繋げると「LSD」となるためドラッグ・ソングとされたが、当然ジョンは否定している。

99年の『イエロー・サブマリン~ソングトラック~』に収録されているリミックス版では、全編リンゴのバスドラがはっきり聴こえる。

作者:J.Lennon - P.McCartney

リード:John


64年のステージで一時的にリンゴの代役を務めたドラマー、ジミー・ニコルがプレッシャーからの口癖「だんだん良くなってる」のフレーズを引用したポールの作品。 ポールが「良くなっていくさ」と前向きに歌うのに対し「これ以上悪くなりようがない」という突っ込みのコーラス部分はジョンが書いた歌詞だ。 ギターとベースが歯切れのいいリズムを刻み、リンゴのドラム・プレイも素晴らしい。中間部にジョージが弾くタンプーラが独特のサウンドを醸しだしている。

因みにこの曲のセッション中にジョンの体調が悪くなり、ジョージ・マーティンは新鮮な空気を吸うのがいいと思ってジョンをスタジオの屋上に連れて行った。ジョンの体調不良の原因がLSDの誤飲であった事を知っていたポールとジョージはジョンが柵の無い屋上で休んでいると聞いて血相を変えた。慌ててジョンを屋上から引きずりおろしたという。

当時の録音ではバウンス・ダウン(4チャンネルのマルチ・トラックが満杯になると、新たなテープのトラックにミキシングして空きトラックを作る作業)を3回も行って最終ミックスを作っているため、2017年の『サージェント・ペパーズ』50周年記念エディションに収録された新たなステレオミックスはリズムトラックが鮮明に聴こえる素晴らしい出来映えである。

作者:J.Lennon - P.McCartney

リード:Paul


「心の迷いの穴を修理しています」という比喩的、哲学的な歌詞を持つポールの作品。 "Fixing a Hole"には俗語で「注射器の跡」という意味がありドラッグソングではないかと物議を醸したが、当然ポールはこれを否定している。 EMIスタジオは埋まっていたため、窮屈であまり設備が整っていないリージェント・サウンド・スタジオでレコーディングされたそうだ。

リードボーカルはポール、コーラスはジョンとジョージ。 ハープシコードが印象的なサウンドは非常にクールな雰囲気を持っていて、ジョージが弾く間奏のリード・ギターはかなりブルージーだ。 センスの良さを感じさせるベース・ラインはジョンのプレイである(後からポールのベースも追加されているが、さすがにこちらの方が伸びやかで正確だ)。

作者:J.Lennon - P.McCartney

リード:Paul


ポールが家出少女の記事から曲想を思いついた美しい作品。 リードボーカルはポール、サビではジョンがコーラスを歌っていて、この部分の歌詞はジョンが手伝っている。 ストリングスとハープのみの伴奏なので、ジョージとリンゴはレコーディングには参加していない。

ポールはこの曲のアレンジを急いでいたが、あいにくジョージ・マーティンはシラ・ブラックのレコーディングで手いっぱいだった。 「今やらないと大変な事になっちゃう!」という勢いだったポールはどうしても待っていられず、プロデューサー兼アレンジャーのマイク・リーンダーにスコアを依頼してオーケストラのアレンジを完成させた。 この件についてポールに悪気は無かったというものの、マーティンは酷く傷つき「私が手掛けなかったスコアはあの曲だけだ!」との思いをずっと持っていたらしい。ポールの天然ぶりはこの頃からエスカレートしていく事に。。

モノミックスはテンポが少し速く実際のキーより半音高いFになっている。またポールのボーカルにほんの少しエコーがかかっている。

作者:J.Lennon - P.McCartney

リード:Paul


ジョンがプロモ撮影のため訪れたケント州の骨董屋で見つけた19世紀ヴィクトリア朝時代のサーカスのポスターから歌詞を引用した作品。引用というより、かなりまんまパクってる。 幻想的なリードボーカルはジョン。ハモンド・オルガンもジョンが演奏。ジョージとリンゴ、マネージャーがハーモニカを吹いている。

ジョンはサーカスの雰囲気を出したいのでスチームオルガンの音を入れたがったが、自動演奏するモデルしか無かったため、ジョージ・マーティンはライブラリからスチームオルガンの音源を探し出した。 そのテープを数センチ毎に刻み、ランダムに繋ぎ合わせてサウンド・ループを作成、ハモンド・オルガンやハーモニウムなどを加えた幻想的な間奏を完成させた。 ミキシングが異なるモノラル版では、間奏のサウンド・エフェクトが揺れた感じなのでかなり印象が違って聴こえる。

作者:J.Lennon - P.McCartney

リード:John


当時、インド音楽・哲学に心酔していたジョージが、前作『リボルバー』収録の「ラヴ・ユー・トゥー」に続いて作ったインド音楽的な作品。

主旋律を奏でるディルルバや音程を持つ打楽器のタブラ、ハープのようなインド楽器のスワラマンデラ、共鳴音が印象的なタンプーラなどシタール奏者のラヴィ・シャンカール率いるエイジアン・ミュージック・サークルによって演奏されている。 更にジョージ・マーティンのスコアによるストリングスも追加されているが、アルバムの中でも異彩を放っている1曲である。 最後の笑い声はジョージの要望で追加されたが、この曲はジョークだよ、と言いたかったのかもしれない。

作者:G.Harrison

リード:George


ポールが10代の時に作ったボードビル調のポップ・ソング。 デビュー前のライブでアンプがトラブった時に即興でピアノを弾きながら歌っていたという。

ポールのリードボーカルは当時の若い声を再現するためにテープの速度回転を少し上げてキーを半音高くしている。 新たに作られたサビにおけるバック・コーラスはジョンとジョージによるもの。 まだ、アルバムコンセプトの"架空のショウ"というアイデアが出る前の、最初期にレコーディングされたもの。 クラリネットをフューチャーした非常に親しみやすいメロディ・ラインを持った佳曲、スタンダードナンバーとして多くのカバーが生まれた。

作者:J.Lennon - P.McCartney

リード:Paul


ポールが駐車違反で捕まったエピソードを歌にしたチャーミングな作品。 ジョージとジョンのアコースティック・ギターが軽快な曲に仕上げている。

リードボーカルはポール、コーラスはジョンとジョージ。 間奏のディキシーランド風の小粋なピアノ・ソロはジョージ・マーティンの演奏だが、この時、テープレコーダーのキャプスタンに粘着テープを貼り付ける"荒技"によってホンキー・トンク調の効果を得ている! 後半の効果音は、大はしゃぎのメンバー達によるくしとトイレットペーパーのパーカッションと掛け声である。

作者:J.Lennon - P.McCartney

リード:Paul


ジョンがケロッグ・コーンフレークのCMにヒントを得て作った作品。 リードボーカルはジョン、コーラスはポールとジョージ。 怒涛のドラムはリンゴとポール2人によるプレイ。

ジョンの提案で印象的なブラス・セクションを追加するが、ホーンのサウンドについてジョンは「ストレートすぎる」と言い、最終的にコンプレッサーなどで加工され随分歪んだ音になった。 途中から登場するワイルドなリードギターはポールが弾いている。

「最後に動物の鳴き声を入れたい」とジョンが言い出したため、ライブラリから探し出された動物の鳴き声がエンディングに挿入された。ニワトリ、小鳥、猫、犬、猟犬、羊、馬、虎、象の鳴き声が登場する。 食物連鎖の順番がジョンの要望であったが、実際はそうなっていない。

作者:J.Lennon - P.McCartney

リード:John


ショウの終わりを告げるエンディング曲として、再びタイトル曲がテンポアップして登場する。 ポールの作品でリードボーカルはポール、ジョン、ジョージの3人によるハモり。リードギターはポールが弾いている。

アルバム最終セッションとなったこの曲のレコーディングは、2日後にはポールが渡米するため、集中的に11時間行われたという。 最終ミックスの段階でジョージ・マーティンは、直前の曲「グッド・モーニング・グッド・モーニング」のエンディングに使われたニワトリの鳴き声とこの曲の冒頭のギターの音が酷似している事に気づき、ミキシング時にニワトリの鳴き声をギターの音に繋げている。

モノラル版のミックスでは観客の笑い声が冒頭に入っていたり、エンディングのポールによるアドリブがより鮮明に聴こえる。

蛇足であるが、セッションを終えてアメリカへ向ったポールは、4月10日にビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンのスタジオを訪ねている。「ヴェガ・テーブルズ」という曲のレコーディングに立ち会ったポールは、そこで「シーズ・リーヴィング・ホーム」をピアノで披露した。

作者:J.Lennon - P.McCartney

リード:Paul,John,George


前曲の歓声が途切れずに続く、ショウのアンコール曲。

ジョンが新聞「デイリー・メイル」紙の記事を題材として曲を書き始めたが、途中で行き詰ったためポールが手伝って仕上げた作品。 ポールは重要なフレーズ「I'd love to turn you on(僕はあなたを目覚めさせたい)」の歌詞と、学生時代の通学の様子を歌った中間部の短い曲を提供した(「turn you on」はドラッグ用語と見なされこの曲は放送禁止になった)。

リードボーカルはジョン、ポールが作曲した中間部分はポールが歌っている。 ジョンはアコースティック・ギター、ポールはピアノとベース、ジョージはマラカスを担当。 曲の途中から登場するリンゴの驚異的なドラミングは、スケールの大きさを際立たせている素晴らしいプレイだ。

ジョンの曲とポールの曲の間に24小節の空白を設け、マル・エヴァンスによる1から24までのカウントと終わりの目印として目覚まし時計のベルを鳴らすようにした。 エンディングにも同様に24小節の空白を設け、何を埋めるかは後で考える事にした。 ジョンは空白の24小節に「ゼロから始めて、世界の終わりのような音を出したい」という希望を出し、「90人のオーケストラにそれぞれの一番低い音から最高音まで出してもらおう」というポールの提案でオーケストラの追加が決まった。 オーケストラのレコーディング当日、関係者全員に「正装して来るように」との通達が出されていて、スタジオに到着した40人のオケの奏者たちにはパーティー・グッズのゴリラの手や変なメガネなどが渡され仮装させられたそうだ。ビートルズの遊び心が伝わるエピソードである。 そして奏者たちへの指示は「自分の楽器で出せる一番低いEから一番高いEを出すように」であった。 隣の演奏と揃わないようにとも付け加えられた。

シャボン玉がフワフワ浮かぶスタジオには、ミック・ジャガーやキース・リチャード、ブライアン・ジョーンズ、マリアンヌ・フェイスフル、ドノバンなど著名人たちが集まり、やはり仮装させられていた。 ビートルズの新アルバムのレコーディングはすべて映像を残そうというアイディアがあったため、この歴史的なレコーディング・セッションは貴重な映像として残っている。 但し、映像のアイディアはすぐにボツになったので演奏シーンを見ることが出来るのはこの曲のレコーディング風景だけである。

アルバムのエンディングを飾る最終コーダは、ジョン、ポール、リンゴ、マル・エヴァンスが同時にピアノの鍵盤を叩いた音をテープで引き伸ばし、最後にジョージ・マーティンのハーモニウムを追加して完成する。ヘッドホンで聴くと約50秒の間に椅子がきしむ音や紙がこすれる音などが聞こえる。

全てのレコーディングが終了すると「動物用のサウンドを入れよう!」というジョンの意見により、曲が終わってから数秒間、犬にしか聴こえない超高音域が入れられた。曲が終わると一斉に犬たちが吠え始める事を狙ったいたずら。CDは20KHz以上の音は切り落とされるため、人には聴こえずらい高周波音が加工されている(モスキート音は若年層には僅かに聴こえるらしいが、小生は残念ながら聴こえません!)。 高音域の後、短いおしゃべりで終わるが、「これ以上はもうないよ」というポールの声を逆再生しているそうだ。このおしゃべりはレコードの一番内側の溝(ラン・アウトグルーヴ)に刻まれていたため、アナログの手動レコード・プレイヤーでは針を上げない限り永遠に鳴り続く仕掛けになっていた(プレス工場の技術者は、この難題にそうとう困惑したらしい)。CDではおしゃべりを数回繰り返しフェード・アウトするように収録されている。

ジョンは後にこの曲について、ビートルズ時代のレコーディングで1番楽しかったものと語っている。

作者:J.Lennon - P.McCartney

リード:John,Paul





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