小生のビーチ・ボーイズ思い出話
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最悪の出会い
同級生や従兄弟の影響でビートルズのファンだった小生がビーチ・ボーイズを知ったのは高校生の頃、ビートルズのLPの解説書である"ライナーノーツ"からだった。 ライナーノーツに「ビートルズのライバル」として度々登場するアメリカのバンド『ザ・ビーチ・ボーイズ』。
ヘンな名前だなぁ。浜辺の少年たち?
なんでもビートルズと同時代から活躍しているアメリカのロック・バンドだそうで、当時ライバル関係にあったらしい。 そこで、音楽雑誌で調べてみると代表作は『ペット・サウンズ』というアルバムということがわかった。
さっそくLPレコードを買って聴いてみた。いざレコードに針を落としてみると。。
この音楽は何だろう? 音がこもっていてすごく陰気な感じ、うまく言えないが古いサーカスの物悲しいBGMというか…、 或いはジャングルの密林に鳴り響いているような感じ…? ロック・ポップスとはまったく別世界のサウンド、これが浜辺の少年たちの音楽???
最初の感想はそんな感じだった。すごく遠い存在のように思った。モノラルだったのも印象を悪くしていた。このアルバムがビートルズのライバルのグループ最高傑作!? 『ペット・サウンズ』は棚に入れられターン・テーブルに乗ることはなかった。
ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』というLPのライナーノーツの一節に『最もプログレッシブなバンドはビートルズとビーチ・ボーイズであった』と書かれていた。 さらに次のように続く。『「サージェント・ペパーズ…」と「スマイリー・スマイル」以降に真に斬新な作品は生まれていない』、とも。
ん!?こっちか!!
プログレッシブの意味はわからなかったけど、そこに記載されていた『スマイリー・スマイル』というLPレコードを買って聴いてみたら・・・
何?これ?????
後になってわかった事だったが、この聴く順番は“最悪”だったらしい。とにかくビーチ・ボーイズとの最初の出会いは小生にとって気まずくあまり良い思い出ではなかったのだ。
ん!? 以外と面白いかもこのバンド
相変わらずビートルズに熱中していた小生が再びビーチ・ボーイズと出会ったのは、山下達郎氏のラジオ番組「サウンド・ストリート」であった。 「ビーチ・ボーイズ特集」と銘打たれたその放送はデニス・ウィルソン追悼の特番として放送されたものであった。
その時初めてビーチ・ボーイズというグループはブライアン、デニス、カールのウィルソン3兄弟と従兄弟のマイク・ラヴ、友人のアル・ジャーディンの5人編成のバンドであると知った。
番組ではデニス所縁の曲が年代順に選曲されていて、スゲーいい曲書いているんだと感心したのを覚えている。 特に「ネヴァー・ラーン・ノット・トゥ・ラヴ」「セレブレイト・ザ・ニュース」「ガット・トゥ・ノウ・ザ・ウーマン」「フォーエヴァー」などはビートルズの音に慣れた耳にも刺激的であった。
おまけとしてブートレッグ(海賊版)の「サーフズ・アップ」のカラオケが流れたが、それがどういう代物なのか当時の小生には知る由も無かった。まぁ、公共の電波で海賊版を流すっていうのも凄いが…。
初めて聴いたサマーソング集
『終わりなき夏』
それでもデニスの曲に感銘を受けた小生はもう少しビーチ・ボーイズを知りたいと思い、ベスト・アルバム『終りなき夏』を購入!! 『ペット・サウンズ』と『スマイリー・スマイル』しか知らない小生にとって、『終りなき夏』は初めて出会うビーチ・ボーイズの“夏の顔”であった。
ははーん、浜辺の少年たちね。 まさにグループ名をそのまんま音にしたような若い躍動感溢れる作品群がアメリカン・グラフィティさながらの世界を見事に表現しているようだった。
『ペット・サウンズ』が同じグループの作品とはとても思えなかったし、先日のラジオで聞いた曲ともまるで違っていた。 調べてみると「終わりなき夏」の収録曲は全て60年代前半の作品、『ペット・サウンズ』と『スマイリー・スマイル』は66・67年の作品、ラジオの曲は69・70年頃の作品である事がわかった。
後日、もう1枚のベスト・アルバム『スピリット・オブ・アメリカ』も聴いてみた。
お気に入りだった
『スピリット・オブ・アメリカ』
『終りなき夏』よりも全体に地味めであったが、明るさの中になんとなく悲しい感じを持っている曲が多く、そこがすっかり気に入ってしまった。 中でも「ブレイク・アウェイ」は素晴らしく、今でも1番のお気に入りである。
60年代前半のヒット曲が収録された『スピリット・オブ・アメリカ』の中で「ブレイク・アウェイ」だけが69年の作品であり、どうやら小生の好みは69年以降に集中しているようなので、その時代のLPを聴く事にした。
ちょっと待った!!
当時70年代のアルバムは廃盤になっていたのか、『L.A.(ライト・アルバム)』と『キーピン・ザ・サマー・アライブ』以外はレコード店では手に入らなかったのです。残念。。
そして、のめり込んでいく事に・・
80年代はビーチ・ボーイズに関する情報は今よりもずっと少なく、LPと付属のライナー・ノーツが唯一の情報源といっても過言ではなかった。インターネットも無かったし。
ライナー・ノーツからブライアン・ウィルソンがグループのほとんどの曲を作っている事を知った。『スマイル』という作品を手がけたが未完成に終わり、幻のアルバムとしてファンの間で熱狂的に支持されている事も知った。
ビーチ・ボーイズの初期のアルバムを少しずつ買い揃えていくにつれ、次第にこのグループの音楽に親近感を覚えていく。そして『ペット・サウンズ』アレルギーも弱まり、少しずつ楽しめるようになっていくのだった。
さて、当時ビーチボーイズに完全にハマるきっかけとなる出来事が2つあった。
1つは70年代のベスト・アルバム『テン・イヤーズ・オブ・ハーモニー』を輸入盤でゲットした事だ。
アルバム冒頭曲「アド・サム・ミュージック・トゥ・ユア・デイ」を聴いた時、「これだー!!」これこそ捜し求めていたものだと思った。 益々70年代のアルバムへの憧れは強まった。特に『サンフラワー』への期待感は半端なかった。
ブラザー・リプリーズ時代のベスト・アルバム『テン・イヤーズ・オブ・ハーモニー』の見開き写真。
左からマイク、デニス、アル、カール、右下にブライアン。
もう1つはレコード屋で偶然見つけたビデオ『アン・アメリカン・バンド』。
60年代のサーフィンバンドとしてのビーチ・ボーイズをありきたりに紹介したものと思いきや、実際はグループの栄光と挫折をリアルに描いた優れたドキュメンタリーだった。 非常にマニアックな作品で、山下達郎氏の解説書や字幕スーパーの曲名紹介が無ければ“ビーチ・ボーイズ初心者”である小生にはとても理解出来るような内容ではなかった。
ブライアンは本当は内向的な性格だった事や、彼の片耳が殆ど聞こえない事、父親との確執、ツアーのプレッシャーと偏執症の事などが赤裸々に語られている。 「スマイル」の崩壊にも言及しており、ブライアンのピアノの弾き語りによる「サーフズ・アップ」の映像や、組曲「火」のプロモ?の異常なサウンドなどに強い衝撃を受けた。
それら全てが小生の知らないビーチ・ボーイズであり、このバンドに対する印象は変わっていく事になるのだった。
『ペット・サウンズ』との再会
時は過ぎ、アナログLPからCDの時代に変わり、ビーチ・ボーイズの全作品CD化も実現、念願だった70年代の作品とも出会う事が出来た(ワーイ!拍手!!)。
既に『ペット・サウンズ』は小生お気に入りの作品ではあったが、世間で言われているような"別格"という感覚ではなかった。『フレンズ』や『20/20』も負けていなかったし、『キーピン・ザ・サマー・アライブ』だって捨てたもんじゃない!!もちろん『サーファー・ガール』や『トゥデイ!』、『サマー・デイズ』も。
そして、小生にとって最高は『サンフラワー』だったのだ。
三十路を迎えた頃であろうか、当時は仕事が忙しくビーチ・ボーイズを聴いていなかった時期であったが、たまたまCDショップで『ペット・サウンズ・セッションズ』というCD5枚組ボックス・セットを見つけた。
『ペット・サウンズ・セッションズ』の布張り調ケース。
この高額なボックス・セットを何故購入したのかよく覚えていないが、Disc1の「素敵じゃないか」を聞いた時の衝撃は忘れられない。 冒頭のスネアの1発で電気が走り、生き生きとしたブライアンのボーカルと繊細で重厚なバッキング! 波のように広がるハーモニー!
聴き慣れていたはずの曲が臨場感溢れるステレオ・ミックスとなり、それまで聴き取りにくかったサウンドの細部まで鮮明になり、終曲の「キャロライン・ノー」まで釘付け状態になった事を今でも覚えている。
逆にこのボックスに出会わなかったら、『ペット・サウンズ』の本当の良さはずっと判らなかったのかも知れない。
ブライアンの元妻、マリリン・ウィルソン(ローヴェル)は60年代当時「ブライアンはせっかくきれいに録音したバック・サウンドを何故か押し込めてしまうの」と語っていたが、これは演奏よりもボーカルを優先していたブライアンのミキシング方法を鋭く突いた言葉である。だからこそステレオ・リミックスされたブライアンの音楽が新たな魅力を備えて“再生”するのだと思うし、その音楽の持つポテンシャルの高さを物語っているのだ。
『ペット・サウンズ・セッションズ』発売以降、様々な未発表音源やリミックスなどの企画CDが定期的に発売され、未だにこのビーチ・ボーイズというグループの新たな魅力に触れる事が出来るようになっている。
ビーチ・ボーイズ・・・今でも小生にとって「気になる存在」であり続けているのだ。多分これからもずっと。
というわけで、小生の超個人的なビーチ・ボーイズの思い出を読んでいただきました。
我が国ではいまいち評価が低いこのアメリカン・バンド、これから聴いてみたい方や既にご存知の方もこの機会にじっくり味わうのはどうでしょうか? "The Beach Boys"が皆様にとって良きパートナーとなりますように。